2022.12.09

「開発協力大綱の改定に関する有識者懇談会」報告書に市民社会が警鐘

12月9日、「開発協力大綱の改定に関する有識者懇談会」の中西寛座長(京都大学大学院法学研究科教授)が林芳正外務大臣に対し、有識者懇談会の議論をまとめた報告書を提出しました。

NGO外務省定期協議会ODA政策協議会・連携推進委員会NGOコーディネイター・委員は12月9日(金)午後4時から、日本記者クラブにて、今後の展望も含め、報告書に対する市民社会の見解を広く発信すべく、記者会見を行いました。

記者会見では、市民社会から選出されて懇談会の委員を務めた稲場雅紀氏他、開発協力に関する政策提言や、市民社会と政府の開発協力に関する連携・協力に取り組む市民社会関係者が出席、発言しました。

その内容について、プレスリリースが出されましたので、こちらでご紹介します。

(PDF版はこちら)

2022年12月9日  プレスリリース

『人間の安全保障』の理念を真に体現した大綱を!

開発協力を「外交の道具」とし、非軍事原則も緩和?

「開発協力大綱」改定有識者懇談会の報告書に市民社会が警鐘

NGO ・外務省定期協議会

大綱改定N GO 代表委員 稲場雅紀

「開発協力大綱」改定市民社会アドバイザリー・グループ

「独自の世界観のもとに、途上国への開発協力を『外交のツール(道具)』として短期的な外交政策に使いまわし、『非軍事原則』の看板は残しつつ軍や軍関係者への支援を強化、一方で本来、開発協力のパートナーであるはずの市民社会との連携は相変わらず軽んじられている。果たして改定大綱は10 年持つのでしょうか」。

12 月9 日、政府開発援助(ODA)をはじめとする日本の開発協力の最上位の政策文書である「開発協力大綱」の改定のために、さる9月に林芳正外務大臣が設置した「開発協力大綱の改定に関する有識者懇談会」は、同大綱の改定に向けた提言を含む報告書を、林大臣に提出しました。市民社会の立場から懇談会に委員として参加した稲場雅紀(アフリカ日本協議会共同代表)は、報告書には、ODA を国内総所得の0.7% に増額するという国際目標を時限付きで達成すべきとするなど、評価できる要素もあるとしつつ、その問題点に警鐘を鳴らしました。

政府は同報告書をもとに早期に大綱の「骨子」を策定してパブリック・コメントや公聴会、意見交換会を実施し、2023年上半期に大綱を改定する計画です。セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンでアドボカシー部長の堀江由美子は「報告書では開発協力が『外交のツール』とされ、『自由で開かれたインド太平洋』(FOIP)や『経済安全保障』など、最近出てきた日本の外交戦略の手段として活用していく方針が明確になっています。これでは、深刻化する気候変動や経済格差、社会の分断に長いスパンで取り組み、脆弱な立場にある人々の命を救うという、開発協力の本来の目的が果たせなくなってしまいます」と述べました。

市民社会は、ここ数十年の間、政府の戦略的パートナーとして、開発協力の本来の意義を追求してきました。「ところが、NGO を通じたODA の実施は、全体の2% 以下にすぎずOECD(経済協力開発機構)加盟諸国の平均である15% を大きく下回っています。改定大綱では、開発協力の本来の意義を追求するNGO ・市民社会への支援を強化する具体策をしっかり書き込むべきです」難民を助ける会理事長の堀江良彰はこのように主張しました。

報告書は「複雑な国家間競争の時代」など、世界の治安情勢への危機感を強調します。「ならば、大綱でこれまで掲げてきた『非軍事原則』をより徹底するのが当然です。ところが、報告書では『非軍事原則』の看板は下ろさないものの、軍や軍関係者への支援はより積極化し、対象国の軍事支出などの動向について注意を払うという従来の記述も見直す、と述べています。例えば、深刻な人権侵害が発生しているフィリピンの軍や警察への支援など、開発協力が人権侵害に加担しかねない状況です。軍や軍関係者、実力を伴う法執行機関を対象とした開発協力は原則行わないといった『非軍事原則』の徹底を求めます」日本国際ボランティアセンター(JVC)代表の今井高樹は指摘しました。

「まだ遅くはありません。政府は市民社会の声を聴き、今後10 年の長期を見通して、『人間の安全保障』の理念を真に体現した開発協力を目指す大綱を策定するよう、政府に強く求めます」市民社会として懇談会の議論をリードした稲場雅紀は訴えました。

本プレスリリースに関する問い合わせは、関西NGO 協議会(担当:栗田(事務局長))

メールアドレス yoshinori.kurita@kansaingo.net

電話 080-4414-1427 までお願いします。