2022.08.09

014 オードリー・タンさんが若者と向き合う理由

7月21日に開催したシンクロビーの設立記念ウェビナーにお招きした台湾デジタル担当政務委員(閣僚)のオードリー・タン(唐鳳)さんのお話で、特に興味を抱いたことがある。ウェビナーの最終部分で、オードリーさんがその前日に、「東京の中学生とオンラインで対話をしていた」と語ったことだ。

この時のオードリーさんの言葉が印象的だった。

「私は政府の人たちと、若い子どもたちとをつなげたいと思っている。まだ選挙権もない若い人たちは、社会を変えるということに具体的な手段を持たない。意見を提示する機会がない。ただ、これからの未来というのは、彼らが過ごす時間だ。これからの未来を過ごす彼らが連帯するプラットフォームを創ることが重要だ」

こう考えるのは、オードリーさん自身が、14歳で中学を中退し、独学でその才能を開花させた経験を持っているからだろう。オードリーさんは12歳でインターネットと出会い、ネット上で古典作品を電子化公開する「プロジェクト・グーテンベルグ」を知る。そこでオードリーさんは、中国語の繁体字と簡体字を自動変換できるプログラムを作り、プロジェクトに貢献した。と同時に、世界中の研究者たちと交流する機会を得た。

オードリーさんがその時知ったのは、人種も国籍も年齢も性別も関係なく、「共通の目的」があれば、だれもが協働できるというインターネットの無限の可能性だった。それが、オードリーさんのイニシアティブで生み出された台湾の政策プラットフォームの発想の原点になったのだろう。だからこそ、オードリーさんは中学生や高校生との対話を重視する。子どもたちには、かつての自分と同じようにさまざまな可能性が潜んでいるはずだ。それは未来の成功の種である。そして何より、自分が今、作ろうとしている未来は、彼らが責任を担い、生きる時間にほかならないー-。オードリーさんの言葉からは、そんな思いが伝わる。

シンクロビーのウェビナーでも語っていたが、オードリーさんは、こうした対話の場を提供する時にはできるだけ「無欲な状態」でいることが重要だと考える。若い世代に向き合う時、私はつい、「答え」を用意しようとしてしまう。そこへ導こうとして、「そうは言っても、今のところはこれが正解なんだよ」と言ってしまいがちだ。しかし、未来に目を向けたとき、今思いつく答えなど、全くといっていいほど、意味がない。私が彼らを導くのではない、彼らに素直に導かれよ、と、オードリーさんに言われたような気がした。

7月に実施された参院選での18歳と19歳の投票率は、34.49%だったそうだ。今回の参院選の全体投票率52.05%を大きく下回る数字だった。投票率だけから若者の気持ちが読み取れるとは思っていないが、日本の社会が彼らの声を受け止める場をどれだけ確保できているか、という視点で見れば、この数字には危機感を覚える。

オードリーさんは、「投票に行け」とばかり言うのではなく、投票以外でも日常的に若い世代が意見を言える場を創ることが大切だ、と話した。私たち大人が提供するべきは、答えでも導きでもなく、彼らがのびのびと安心して語り合い、高め合う市民スペースだ。シンクロビーがそんな場を創ることができればうれしいことだと思った。

※オードリー・タンさんの基調講演とウェビナー概要はこちらをご覧ください。コメンテーターの阿古智子さん(東京大学大学院総合文化研究科教授)との対話の詳報も間もなく公開いたします。https://thinklobby.org/weekly/012wc/

(ウィークリーコラムは個人の見解に基づく記事であり、THINK Lobbyの見解を示すものではありません)