2022.10.18

024 新型コロナで深刻化した「ジェンダー課題」 ソーシャルビジネスで解決に取り組む

新型コロナの感染拡大が始まってから間もなく3年になろうとしている。感染拡大が落ち着き、日本を含む多くの国々で入国制限や行動制限が緩和され始めた。社会生活はリモートワークの定着など「ニューノーマル」と名付けられた新しい形が浸透し、時代は「ポストコロナ」または「ウィズコロナ」へと移行しつつある。

この3年間、私たちは新型コロナが浮き彫りにした様々な社会課題を目の当たりにしてきた。その多くは、感染拡大前から社会に潜在していたもので、感染が抑制されたからといって自動的に解決するものではない。むしろ、コロナ禍をくぐり抜けた今、解決に取り組む時が来た、と考えなくてはならないだろう。

途上国の起業家を社会的投資で支援している特定非営利活動法人ARUN Seedが注目したのは「ジェンダー不平等の問題」だ。ARUN SeedはJANICの会員でもある。代表理事の功能聡子さん=写真左から2番目=によると、「平時においてジェンダー平等が進んでいなかったことが、パンデミックの影響でより深刻になっている」と、指摘する。この状況を受け、功能さんたちは「ジェンダー課題に立ち向かう起業家をビジネスコンペティションを通して発掘し、支援する」ためのクラウドファンディングを実施中だ。

https://readyfor.jp/projects/100942

content_c2ca448d931523f898d4b4a229dc0f3833b087fe

ジェンダーの不平等がどのように深刻化したのか。ARUNがまとめて資料に基づいてまとめると、以下のようになる。

①女性への暴力の増加(ロックダウンの規制が厳しいところほど暴力が激しくなる傾向があるとの報告も)

②死産、妊産婦死亡率の増加(避妊したくてもサービスを受けられない女性が増え、意図しない妊娠が140万件増えるという予測)

③女子の教育機会の減少(例:マラウイでは中等教育における女子の中退率が6.4%から9.5%に増加など)

④児童婚の増加(経済的負担を軽くするための児童婚リスクが25%上昇するとの予測)

⑤女性雇用への影響(コロナ禍での失業者は女性が54%、男性が46%で女性が上回る)

⑥女性経営者への影響(例:インドネシアでは中小零細企業のうち64.5%を占める女性経営者の多くが、パンデミックの初期の数ヶ月の間に収益が減少し破綻寸前となった)

コロナ禍以前になるが、ネパールで人身売買の被害者を救出する団体を取材したことがある。活動をしているのは、同じ被害にあった女性たちだった。彼女らはインドとの国境に小屋を建てて国境を往来する人々を監視して人身売買の被害者を見つけたり、インド側の売春宿の捜索を手伝ったりして救出していた。被害者の中には家族に「売られた」という少女たちも多い。団体では家に帰れない少女たちをシェルターハウスにとどめ、縫製などの技術を身に付けさせ、自立を促していた。私が訪れた時には、インドの売春宿で救出された10代の少女が裁縫の練習をしていた。「お父さんが仕立て屋だから、いつか手伝うの」。彼女は自分が父親に売られたことをまだ知らないのだ、と後で聞いた。

私がジェンダーの課題を考える時、いつも思い浮かぶのはあの小さな少女の瞳だ。「女の子だから」というだけであってはならない搾取の対象になる子供たちが、ネパールに限らず世界中にまだたくさんいる。コロナ禍でその状況が悪化し、その後の経済状況を考えればまだ改善されていないことは容易に想像ができる。

ジェンダーの不平等には様々な側面がある。ARUN Seedの取り組みにより、一人でも多くの女性が、あるいはジェンダーをめぐる課題ゆえに苦痛を強いられている人々が、生きる希望を手にすることができるように祈りたい。

クラウドファンディングの締め切りは10月31日(月)午後11時まで。

(ウィークリーコラムは個人の見解に基づく記事であり、THINK Lobbyの見解を示すものではありません)