2022.10.31

026 「問い」に導かれて

国際協力業界で働いていると時々「原体験」について聞かれることがある。

「原体験」とは幼少期における人生の考え方や生き方に影響を与える経験のことだが、国際協力における原体験とは「国際協力に興味を持ったきっかけ」と捉えられる。その時に私は、青年海外協力隊(現JICA海外協力隊)の経験のことを答えることが多い。

協力隊に行こうと思ったきっかけは友人の言葉だった。

私は新卒で映像制作会社に就職したが、1年未満で退職をした。映画が好きで将来映画制作に関わりたいと思っていたが、あまりに多忙で目標を見失い、映像業界で働き続けるのは難しいと思った。次の仕事も決まっていなく、やりたいことが分からず、困っていた私に「10年後、20年後どうなっていたいのか」と聞いてくれた友人がいた。「今、何がやりたいか」ではなく「将来どういう人間になっていたいか」を考えたとき、以前から漠然と国際協力に興味はあり、将来はボランティア活動をしたいと思っていたことを思い出すことができた。そして少しでも誰かの役に立ちたいと思い、青年海外協力隊を目指した。

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カンボジアでの活動の様子

青年海外協力隊員として向かったのはカンボジア。クメール語もつたなく、職業経験も少ない私が生活出来たのは、周りの人の助けがあったからだ。困ったときに助けてくれたのは、周りにいたカンボジア人だった。そして、2年間をカンボジアで過ごした後、私は人権学の修士号を取得するためにイギリスに渡った。カンボジアでは活動を通じ、性差別や教育、開発について考える機会が多くあったが、その結果、自分が何が出来たのかはっきりと言葉には出来ず、きちんと体系的に勉強をした後で、いつか活動の現場に戻ってきたいと思う気持ちがあった。

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イギリスで大学院の友人たちと

その後、日本の人権NGOで働き、ナイジェリアで紛争解決・平和構築に従事し、現在はTHINK Lobbyのアドボカシーオフィサーとして働いている。この仕事を選んだのは、協力隊時代の経験やその後の勉強で、世の中の不条理に少しでも立ち向かいたいと思ったからである。しかし振り返ってみればそれは、協力隊以降の経験だけではなく、幼少期に周りに日本人がいない中で生活していたことや、学生時代にアメリカで人種差別にあったこと、大学時代色々なバックグラウンドの人と接したことなど様々なことが関係している。

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ナイジェリアの国連ボランティア時代

仕事に迷っていた私に、「将来どんな生き方をしたいか」ということを考えさせてくれたのは、友人のあの時の一言だ。それからもうすぐ10年が経つが、私はあの時なりたいと思っていた人に近づくことが出来ているのかを今も考える。そしてこれから10年後の自分についても、常に自分に問い続けていきたいと思う。

(ウィークリーコラムは個人の見解に基づく記事であり、THINK Lobbyの見解を示すものではありません)