2022.11.07

027 民主主義と軍事力の不思議な関係

久しぶりの海外出張で10月25日から27日、台湾の台北市で開催された国際会議「第11回World Movement For Democracy」に出席した。1999年から2年ごとに開催されていたが、コロナの影響で4年ぶりの開催となった。世界70カ国から約300人の市民社会、アカデミア、シンクタンク、メディア、ビジネスセクター等の関係者が集まり、民主主義を守り、きたえるための熱い議論が交わされた。

出席者は、多彩な顔ぶれだった。ウクライナ、ロシア、北朝鮮、中国、香港、アフガニスタン、イラン、ベネズエラ等からの亡命者や避難してきた人をはじめ、昨年ノーベル平和賞を受賞したフィリピンのジャーナリストで、この会議体の議長であるマリア・レッサさん、デジタル民主主義を唱える台湾デジタル大臣のオードリー・タンさんもいた。日本からは、この会議体の運営委員である国際政治学専門の市原麻衣子さん(一ツ橋大院教授)、現代中国研究専門の阿古智子さん(東大院教授)らが出席された。

中央:2016年香港立法会選挙で議員に選出されたが、2017年7月に資格を取り消され、イギリスで亡命生活を送っているNathan Law氏。右:阿古智子東大教授(現代中国政治専門)Nathan Law

中央:2016年香港立法会選挙で議員に選出されたが、2017年7月に資格を取り消され、イギリスで亡命生活を送っている民主活動家Nathan Law氏。右:阿古智子東大教授(現代中国政治専門)

今回の会議には、国際社会の「今」が生々しく散りばめられていた。開催時期は、習近平国家主席をトップとする中国指導部発足直後であり、会議冒頭の蔡英文総統の挨拶時には、張り詰めた緊張感が会場に漂った。ウクライナからの出席者が自国の惨状を語り、支援を求めると、ロシアからの活動家は涙ながらに、“I am so sorry” と謝った。また世界各地に逃れている亡命者は、異口同音に国境を越えて「連帯」して活動することの重要性を訴えた。

蔡英文

蔡英文総統のスピーチ

私はこの会議に参加して、デジタル技術と民主主義の関係など新たな気付きも得たが、同時に国際社会の現実を改めて思い知らされた。その中で心の中の整理がつかなかったことは、「民主主義と軍事力」との関係だ。ウクライナや香港の例でいえば、どんなに民主主義を守ろうとも、人の命を救おうとしても、権威主義的な国家の「軍事力」、「公権力」には、太刀打ちできない現実がそこにある。少なくとも一時的には。

オードリータン、NED理事長

オードリー・タン氏とNED理事長と共に

民主主義は、その正当性とは裏腹に、もろいものであることも改めて思い知らされた。この会議中にも、“We need weapons!”という、軍事力の必要性を訴える発言をしばしば耳にした。どこからともなく飛んでくるミサイルから身を守り、防空壕で息をひそめている無防備の市民を救うには、それに対抗するための軍事力を含めた対応力が必要であることは事実である。中国も台湾への武力行使、力による併合も辞さない構えであり、北朝鮮の核開発、ミサイル発射による威嚇も続いている。

アートアフガン

会場には、銃の代わりに『えんぴつ』を、というメッセージが伝わるアートが飾られていた

本来、「民主主義」は人権や人々の自由を守り、平和な社会を作り出せる最強のソフトパワーであるはずである。しかし、その真逆に位置づけられる「軍事力」というハードパワーに太刀打ちできていない現実を突きつけられている。そのことに対し、我々は何をしたらいいのであろうか。そのことの整理がつかず、会議の最後に「私は平和ボケをしているのでしょうか。その回答が得られるまでは、日本に帰れません」と、問題提起を含む、もやもや感を正直に発言をした。その後、会場にいた何人もの人が私に近づき、同感であるとの声をかけてきた。

この問いに関する現時点での私の答えは、以下の通りである。つまり必要最低限な軍事力(これも難しい定義だが)を維持しつつ、すべての人々の人権を保障し、その命を守るためには、「民主主義は権威主義的体制より、望ましい政治システムであること」を、国境や政治体制を越えて人々に理解してもらい、浸透させる努力を続けるしかない、ということだ。何故ならば、国の体制のあり方は、究極的に、そこに住む市民が決めることだからである。

最後は、英国元首相のチャーチル氏のことばで締めくくりたい。「民主主義は最悪の政治といえる。これまで試みられたきた、民主主義以外のすべての政治体制を除けば、だが」。「民主主義」の旗の下に国を越えて人々が集まり、語り合い、改めて「連帯」して活動することの重要性を感じた。

Democracy看板トリミング

(*続編として後日、「民主主主義」と「デジタル・テクノロジー」との関係に触れます)

(ウィークリーコラムは個人の見解に基づく記事であり、THINK Lobbyの見解を示すものではありません)