2022.11.29

030 OFWのクリスマス

毎年クリスマスが近くなるこの時期、かつて暮らしたことのあるフィリピンを思い出す。

フィリピンの人たちはクリスマスをとても大事にしている。9月に入ると街にクリスマスソングが流れ始め、しっかり年明けまでツリーを飾る。その背景には、信仰心や陽気でお祭り好きな国民性があろうかと思うが、もうひとつ、大事な要素がある。それは、海外で働く家族が帰ってくる季節だ、ということだ。

フィリピンは、世界でも指折りの労働力輸出国だ。国民の10人に1人が外国で暮らし、働いているという。海外で働くフィリピン人はOFW(Overseas Filipino Workers)と呼ばれる。彼らは母国に送金し、家族を支え、国の経済を支える「英雄」とみなされる。帰国ラッシュとなるクリスマスには、大統領が自ら空港へ出むき、「英雄」を出迎えることもあった。

そんなフィリピンで、医療従事者、なかでも看護師の流出が社会問題になっている。現地の新聞によると、フィリピンからは毎年約17,000人の看護師が海外就労しているという。新型コロナで国内の看護師が急速に不足したため、フィリピン政府は人材確保のために海外就労の上限を設定した。しかし、劣悪な労働環境や賃金未払いなどにより、仕事をやめる人たちもいて、長期的な国内の医療人材確保にはつながっていない、と新聞は指摘する。

コロナ禍前から、フィリピンでは看護師が海外に流出し、不足していた。海外の方が圧倒的に給与などの待遇が良いからだ。地元紙によれば、民間病院の看護師の初任給は月160ドル程度のところもあるという。また、医療従事者としての看護師の社会的な地位も高い。フィリピン国内で医師免許を取得しながらも、看護師として国外で働く人もいた。

これはフィリピンだけのことではないが、新型コロナの感染拡大を経験した私たちは、医療従事者が最前線に立ち、闘っている状況を目の当たりにしている。彼らの存在なくてしては、私たちは命をつなぐことさえできないということを改めて実感した。彼らの存在や奮闘を称えるだけでなく、誠実に職務を全うしようとする人たちに相応の労働環境と対価を用意するのは、当然のことだろう。

そしてこれは、医療従事者だけでなく、多くのエッセンシャルワーカー、ひいてはすべての働く人についてもいえることだ。シンクロビーが現在、専門家たちと研究に取り組んでいる「ビジネスと人権」というテーマにも重なる。雇用する側の問題だけではなく、社会として何ができるのか、考えていきたい。

(ウィークリーコラムは個人の見解に基づく記事であり、THINK Lobbyの見解を示すものではありません)