2022.12.26

034 「議論」も「説明」も足りない! 防衛費増と防衛政策の大転換

2022年6月、岸田内閣は骨太の方針で「新しい資本主義」の柱として、「人への分配と投資」を打ち出しました。しかし、以来、その「分配」の実感がないうちに、今回は国民の痛みを伴う、防衛費の増額を決めました。物価高に苦しむ有権者にとっては、「あれれ~?」、「どうしはったん、岸田さん」、「まずは分配でしょう!」という感じではないでしょうか。

防衛費のGDP比2%への引き上げを打ち出した岸田内閣は、12月23日、来年度の防衛予算を6兆8219億円とし、前年度比26%の増額予算を決めました。1976年の閣議決定で、防衛費はGDP比1%以内の枠を決め、その後、中曽根政権で総額明示方式に変更しましたが、それでも概ね1%前後で推移してきたのです。

でもここにきて、突然、「GDP比2%」そして「敵基地攻撃能力の保有」を打ち出しました。納税者を6千万人とすると、防衛費だけで、一人当たり11万円程度の支出となり、今後、毎年負担増が続きそうです。

一方で、2022年度の家計支出は、物価高で9万6千円増えました(みずほリサーチ&テクノロジーズ調べ)。 来年度も4万円の支出増となる見込みであり、防衛予算増のための増税で更なる負担も検討されているようです。

必要な防衛費の増額について、憲法に則り、国民に丁寧に説明し、民主的な手続きで増やすなら、まだわかります。しかし問題は、防衛費を増額し、防衛政策の根幹を変更する、その根拠と国民への説明です。実際に防衛費をGDP比2%に増額して、どのように防衛力と外交と組み合あわせ、日本とこの地域の安全保障をどう確保するのか、それが全く見えませんし、深く議論された形跡も見えません。また国民に対し、十分な説明 がなされているようには見えません。防衛費増を賄うために国債を発行し、未来へツケを回すなら、それこそ、その意義を国民に説明し、可否を問う必要があります。

また、敵基地攻撃能力の保有は、他国の領域における武力の行使であり、基本的にこれまでの原則に反すると考えます。これまでは自衛権の発動として、防衛力は他国からの攻撃を排除のための必要最小限のものに限られ ています。ですから今回の方向転換は、単なる解釈の変更ではなく、防衛政策の根幹の変更です 。

「開発協力大綱の改定」でも同じでした。何故に大綱を改定するのか、改定の根拠とした「開かれたインド太平洋(FOIP)」は、そもそも何を意味するのか、具体的な説明 はありませんでした。防衛政策の転換を含む、今日の日本の基本政策のふらつきは、岸田首相だけの責任ではありませんが、全体として「政策議論」、「説明責任」が全く足りていないことは、内閣総理大臣であり、政治家たる岸田首相の責任が問われるものです 。

外交や安全保障の推進は、国が行うべき政策の範囲でありますが、それを政府に任せるだけではいけません。政治は、国民の意識や実力の表れです。政策議論や国民に対する説明が足りないことの背景には、為政者側の「国民にはこの程度で足りるであろう」という「甘え」があります。まずは、我々一人ひとりが外交や安全保障にも関心を持って、「その説明では足りませんよ」という、一定の圧力をかけていく必要があります。

我々が立ち上げたシンクタンク、THINK Lobbyも、市民が政策に関心を持つきっかけを作り、市民の視点に立った政策議論を促進させることだと思っています。THINK Lobbyとしても、そのような目的をもって来年も活動してまいります。引き続きよろしくお願いします。

(ウィークリーコラムは個人の見解に基づく記事であり、THINK Lobbyの見解を示すものではありません)