2023.01.09

035 ズームインとズームアウト

年始に、オランダの歴史学者ルトガー・ブレグマン氏が日本のZ世代と語り合う動画を見た。導入部の9分間だけの動画でも十分に見ごたえがあるので、ぜひご覧いただきたい。

https://www.youtube.com/watch?v=Oh7y7KkpC9o

この中で私は本筋以外に、ブレグマン氏が使った「ズームアウト」という言葉に興味を持った。

私は、国際報道の仕事をしてきた経験から、海外のニュースを見ると、「このニュースは、読者の『我が事』になっているだろうか」と思うことがしばしばある。距離的に遠い国、近くても心理的に隔たりのある国、まったく知らない、関心のない国。そういう国々や地域の人々を取材して記事にしても、どこか「他人事」のようにとらえられてはいなだろうか、といつも思う。

それを少しずつでも解消する方法のひとつは、「ズームイン」だと思っていた。

どんな国でも、どんな地域でも、同時代を生きる人間に焦点を当てれば、同じ人間として共感を得られる部分が必ず見える。ましてズームインは、現場にいる記者にしかできない仕事である。そう思って、現場ではひたすらにズームインのアプローチを模索していた。

ところでブレグマン氏は動画の中で、「世界に希望を見出せない」と言う若者に対し、「少しズームアウトしてみると、人類は種として驚くべき進歩を遂げたことがわかります」と語りかけた。そして、抵抗者や少数派が声を上げたことが長い時間をかけて常識になったり、社会を変革したりしていることが分かる例を挙げた。

私は、この言葉にはっとした。今世の中で起きているさまざまな課題を「我が事」として考えるためには、ズームインだけが有効な手法ではない。むしろ、時間や空間を「ズームアウト」することで、課題を普遍化することができるのかもしれない、と思った。

時間や、空間をズームアウトする。そうすることで見えることがある。共感を得やすくなることがある。それはすなわち、過去を知ることや、自分の居場所や枠を超えた部分に目を向けること、すなわち広く「学ぶ」ことだろう。

混迷を深める世界情勢の中で、2023年も日本は主体性なくどんどん巻き込まれていく可能性が高い。一人ひとりが、「私はどう思っているのか。どう考えるのか」を突き付けられている。ズームインとズームアウトを繰り返しながら、自分が向き合うべき課題をしっかりと把握しよう。そう思った年明けだった。

(ウィークリーコラムは個人の見解に基づく記事であり、THINK Lobbyの見解を示すものではありません)