2023.01.16

036 「馬毛島」で考えた

「馬毛島」という島をご存じだろうか。

まげしま、と読む。鹿児島県の南、鉄砲伝来の地として知られる種子島の西12キロに浮かぶ小さな無人島だ=写真。今は無人だが、かつては住民がおり、学校もあった。この馬毛島に、米空母艦載機の離着陸訓練(FCLP)が移転することになり、その計画に伴って自衛隊基地を建設するための本体工事が1月12日、現地で始まった。

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昨年の4月、この馬毛島をかかえる種子島の西之表市の友人を訪ねた。

西之表市生まれで、子どものころから馬毛島を眺めて過ごしてきた友人は、自衛隊基地の建設計画に心を痛めていた。沖縄復帰後、米軍に関連する新たな施設ができるのは初めてなんだ、とも言っていた。

夕刻、高台のレストランで食事をしながら海を眺めると、ちょうど夕日が馬毛島を包むように照らしていた。西之表市には、基地建設に賛成する人も、反対する人もいる。友人は島を見つめながらつぶやいた。

「おれは、馬毛島の自然も歴史も大好きだし大切なんだ。西の端の小さな無人島など、多くの人にとっては基地建設にちょうどいいのかもしれないが、自分にはちょうどよくない。どうすればいいか、悩むし苦しい。沖縄にしても、馬毛島にしても、日本の防衛をこの小さな島々が苦悩しながら担っているんだ。もし機会があればそのことを、一人でも多くの人に伝えてくれ」

1月7日の日米安全保障協議委員会(2プラス2)で発表された共同声明を見ると、「米国は、2011年日米安全保障協議委員会(SCC)文書の記述と一致する馬毛島の施設について、2022日本会計年度日本政府予算案への建設費の計上による日本の決定を歓迎した」と、記載されている。

一方、朝日新聞の報道によれば、西之表市の八板俊輔市長は、「本体工事に関して私も市民も心構えができていない。防衛省と協議を続けて判断する材料を引き続き求めていきたい。その作業はまだ続いている」と語った。地元では、合意も納得もされていない工事がいつの間にか進み、日米両政府がそれを「歓迎」という言葉でふたをする。この繰り返しだ。

日本の防衛政策が、大きく、根本的に転換しようとしている今、国民と政府の間に最も必要なものは「信頼」だと思った。防衛力が不要だとは思わない。だが、武力行使を判断する人々と、私たち市民の間には強固な信頼関係が存在してないのではないか。それはそもそも、政府が掲げる「防衛力強化」にとって、致命的なことではないだろうか。馬毛島を見つめながら、改めてそう思った。

JANIC/THINK Lobbyは1月10日、防衛政策の大転換について政府の丁寧な説明を求める声明を出した。さらに、外交・安全保障政策の変更にあたって、市民の視点にたった議論を促していきたい、としている。ひとりの市民としては、日々の報道を自分なりの視点で継続的に読み解くことで、この議論に参加しているのだ、と考えたい。信頼できる政府をつくっていくのもまた、私たち国民の責務なのだと痛感する。

(ウィークリーコラムは個人の見解に基づく記事であり、THINK Lobbyの見解を示すものではありません)