2022.05.10

001「ロシア非難」に悩む各国

国連総会は4月7日,ウクライナに侵攻したロシアに対し、「重大かつ組織的な人権侵害がある」として、人権理事会の理事国としての資格停止を求める決議を賛成 93カ国、反対24カ国で採択した。棄権は58カ国だった。共同通信によると、安全保障理事会常任理事国の人権理事会メンバーが資格停止されるのは初めてだ。国連総会は3月2日、緊急特別会合でロシアによるウクライナ侵攻を非難する決議を賛成 141カ国、反対5か国、棄権35カ国で採択している。

日本で日々伝えられる情報を見ていると、世界がロシア側と欧米諸国側に二分されたかのような印象を受ける時がある。しかし実際には、賛成にも棄権にも複雑なそれぞれの事情がある。

例えば、東南アジア諸国連合(ASEAN)は、加盟国それぞれにロシアとの関係に違いがある。今年の議長国であるカンボジアは、国連総会緊急特別会合でのロシア非難決議では「提案国」のひとつにまでなり、積極的な姿勢を示している。フン・セン首相は、カンボジアが歩んだ長い内戦の歴史を踏まえ、「戦争に勝者はいない」との立場で和平の実現を訴える。ただ、日本の岸田文雄首相が公式訪問した際に出した共同声明では、武力行使に懸念を示したものの、巧妙に「ロシア」という国名を避けて名指しによる非難をしなかった。ロシアと比較的近い関係にある中国への配慮がみられる。

これまでのところ、ロシアへの経済制裁にまで踏み込んだのはASEANではシンガポールだけだ。ロシアとの関係が深いラオスやベトナムは、3月の非難決議では棄権。また、昨年2月に国軍がクーデターで実権を握ったミャンマーは、国軍は「ロシア支持」の姿勢だが、国連ではクーデター前に着任した国連代表がそのまま在籍しているため「ロシア非難」にまわった。

一方でASEAN、中でもインドネシアは、今年11月にバリ島で開かれる主要20カ国首脳会議(G20)の主催国であるという事情がからむ。インドネシアは東南アジアで唯一のG20メンバーであり、今回初めて首脳会議を主催する。インドネシアは「ロシアを含む、G20のすべてのメンバーを招待する」と強調しており、G20からロシアを排除するべきだ、としている欧米諸国をけん制している。「ロシアとの対話の道を閉ざさない」との姿勢は、経済制裁をしているシンガポールも同様だ。

対ロシア姿勢が注目されているインドをはじめとした南アジア諸国も一枚岩ではない。3月のロシア非難決議では、インド、バングラデシュ、パキスタン、スリランカが「棄権」にまわった。

インドにとってはロシアは最大の武器輸入国だ。インド国内の英字紙によれば、「2010年から2020年にインドがロシアから輸入した武器は、武器輸入総額の63%にのぼる」。国内には、「ロシアへの武器依存度を下げるべきだ」という意見も出ているという。また、パキスタンはガスパイプラインの国家プロジェクト、バングラデシュは原子力発電建設などをめぐり、それぞれロシアとの関係が深い。

新聞などの論調を見る限り、南アジアの国々は、人道的立場からはロシアを非難することが当然ととらえているようだ。しかしその一方で、欧米諸国に対し、北大西洋条約機構(NATO)の拡大に対するロシアの主張を「真剣にとらえなかった」ことがこの事態の遠因だ、という指摘や、欧米諸国の経済制裁の実効性を疑問視する意見もあった。

「国際社会」という言葉は便利だが、それがだれを指すのか、何を示すのかという点においては使う度に定義し直さなくてはならない。ロシア非難をめぐる各国の姿勢の違いに、改めてそのことを思った。

※ウィークリーコラムは、時事の話題を民主主義や市民社会の視点で切り出します。なお、このコラムは筆者個人の見解に基づきます。