2022.10.04

022 ポル・ポト派特別法廷、16年の審理に幕

1970年代にカンボジアを支配したポル・ポト派政権の元幹部らを裁くカンボジア特別法廷は、9月22日、キュー・サムファン元国家幹部会議長(91)の上級審を開き、一審の終身刑を支持する判決を言い渡した。2006年に設置された特別法廷の判決はこれが最後となり、16年にわたる審理に幕を下ろした。

これまでに裁かれたのは、S21と呼ばれたプノンペン市内にある政治犯収容所のカン・ケック・イウ元所長、政権内序列2位のヌオン・チア元人民代表議会議長、序列3位のイエン・サリ元副首相、その妻のイエン・チリト元社会問題相、そして今回判決が確定したキュー・サムファン元国家幹部会議長だ。

カン・ケック・イウ服役囚には終身刑が言い渡されたが、服役中の2020年に死亡した。また、イエン・サリ被告は2013年に、イエン・チリト元社会問題相は認知症で釈放された後2015年に、ヌオン・チア被告は2019年にそれぞれ死亡した。5人の被告・服役囚のうち4人がすでに他界していることは、この裁判が、まさに「時間とのたたかい」であったことを物語る。

カンボジアの英字紙プノンペンポストによると、特別法廷の報道官は「特別法廷は、犯罪は必ず訴追され処罰されなければならないということを世界に示した。また、法廷の場で語られたことは重要であり、ポル・ポト派による強制移住や強制結婚、強制労働の実態、内部粛清などの状況が明らかになった。また、若い世代が、国家を率いる指導者の誤りにより200万人近い人びとが犠牲になった虐殺の歴史を知ったことは意義深い」と、述べた。

特別法廷への評価はさまざまだ。政権を率いたポル・ポト元首相は1998年に死亡しており、法廷で裁くことはかなわなかった。元幹部たちも、一部以外は自らの責任を認めることはなく、ポル・ポト派政権が残虐な拷問や処刑、人道に反する罪に手を染めた理由や全体像は判明したとは言い難い。また、当然のことながら、法廷の終結は、被害者やその家族の苦しみ、悲しみの終わりを意味しない。

それでも16年間にわたる長い取り組みは、カンボジアの現代史にとって、さらに人類の現代史において重要な意味があったと私は思う。

国内外に認められた法廷で被告や関係者、被害者やその家族から語られた多くの証言は、映像と文字で残され、現代史の貴重な記録となった。カンボジア国内で法廷が開かれたことでカンボジア国民がこの裁判を直接傍聴することができたことも非常に重要だ。ポル・ポト時代を知る人も、知らない若者たちも、連日多くの人が傍聴席で裁判を見守った。

特別法廷の判事は判決の中で、ポル・ポト派による虐殺の歴史を「人類史上最も凶悪な犯罪」と位置付け、カンボジア人だけでなく、人類全体が共有し検証すべき負の歴史であるとした。現代史を裁くことの難しさに直面しながらも、事実の断片を未来に残した意義は大きい。(写真は、カンボジア特別法廷の様子。出典:ECCC https://www.eccc.gov.kh/en)

(ウィークリーコラムは個人の見解に基づく記事であり、THINK Lobbyの見解を示すものではありません)