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2024年04月24日(水)

スウェーデン政府がCSO支援策を大幅に変更、市民社会は共同書簡を発表

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高柳彰夫

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 スウェーデン国際開発庁(Sida)は、政府からの指示により、2024315日、スウェーデン政府との事業を実施する「戦略的連携組織(Strategic Partner Organisation、以下SPO)」に対して、SPOを通じた支援とそれにもとづくSPOとの契約を、本年1231日をもって終了し、以後の支援は、スウェーデン国内外を問わず市民社会組織(CSO)が対等に競争する公募によってなされる、と通告した。また、CSOには、各団体が実施する支援に関するコンセプト・ノートを本年5月までにSidaに提出することを求めた。ただし、現時点(419日)で、コンセプト・ノートを用意する上での重要な原則や優先順位などの事項はSidaから発表されていない。

 スウェーデンでは、20229月の総選挙の結果、それまでの社会民主労働者党(Sveriges socialdemokratiska arbetareparti、略称:SAPを中心とした左派連合政権から、穏健党(Moderaterna)を中心とし、極右政党であるスウェーデン民主党(Sverigedemokraterna、略称:SD)が閣外協力する右派連合政権に交代した。同政権は、フェミニスト対外政策(Feminist Foreign Policy)や政府開発援助(ODA)を対GNI1.0%拠出するという国際目標を破棄し、202312月に発表したODA戦略では、貧困削減や人権などにも言及されているものの、その表現は弱まり、貿易や移民などにおけるスウェーデンの利益との結びつきが強調された。20241月、スウェーデン政府はSidaに対してCSO支援のあり方を見直すように指示し、上述したCSOに対する通告にいたった。

 右派政権成立以後、スウェーデンでは平和・移民・市民教育など国内で取り組むCSOに対する支援も打ち切られている。

DAC-CSO書簡

 JANICも参加するDAC市民社会レファレンスグループ(注1)では本件に関する書簡を発表した。以下、本書簡の概要を紹介する。

 Sidaの通告とCSO支援策の変更は、スウェーデンのCSOのみならず、SPOを通じて支援を受けてきた90か国、約1,750CSOの活動にも深刻な影響を与える。2021年7月にスウェーデンを含むOECD(経済協力開発機構)開発援助委員会(DAC)のメンバーが採択した「DAC市民社会勧告DAC Recommendation on Enabling Civil Society in Development Co-operation and Humanitarian Assistance、注2)」での約束にも、以下の点で反するものである。

(1)有意義でインクルーシブな政策対話・協議

 DAC市民社会勧告における重要な原則の一つは、DACメンバー、パートナー国(被援助国)双方において市民社会とのパートナーシップに関する政略・政策について、CSOとの完全でインクルーシブな協議を実施すること、である(第2の柱-1パラグラフ)。315日のSidaの通告は、世界中の非常に多くのCSOに影響を与えるものであるが、Sidaの政策変更に関して、CSOは意見を述べる機会がまったく設けられなかった。

(2)柔軟で予測可能なプログラム・コア支援

 DAC市民社会勧告は柔軟で予測可能なプログラム・コア(CSOの活動の中長期計画に対する包括的支援)を求める(2-3)が、Sidaはスウェーデンと南側のCSOに対して、現時点で条件や支援対象を何も示さないまま、5月の公募に向けてコンセプト・ノートを用意するよう要求している。これは、独自のアクターとして市民社会を扱う、というDAC市民社会勧告の考え方に反するものである。

(3)パートナー国における現地市民社会のリーダーシップの支援

 DAC市民社会勧告はパートナー国の現地市民社会のリーダーシップへの支援を唱える(2-4)。南北のCSOが現地市民社会のリーダーシップやパワーシフトに取り組んでいるさなかに今回の通告は行われた。

(4)対等なパートナーシップ

 17SPOに対する支援の打ち切りを通告する一方で、Sidaは市民社会支援の優先順位やモダリティについて何も示していない。DACの市民社会に関する実践コミュニティ(Community of Practice:CoP)は、よい実践事例の収集に取り組む中で、対等なパートナーシップやパワーシフトのための多様な支援を提唱する。

 スウェーデンを含むDACメンバーは、南の市民社会への直接支援の機会を増やしてきた。一方で、北のCSOや、国際CSOによる南のCSO支援における重要な役割も認知している。スウェーデンのSPOを通じた支援の最新のガイドラインは、CoPによって「現地市民社会のオーナーシップとリーダーシップ支援のよい実践事例である」と評価された。

(5)危害を与えない(do no harm)

 Sida17SPOを通じた支援をどのように変えていくのか、Sidaによる直接支援を実施する十分な体制にあるのか検討されないまま、突然の通告を行った。DAC市民社会勧告は市民社会スペースに危害を加えないことを唱える(1-4)が、今回の拙速な通告が市民社会スペースに与えうる影響について検討されていない。

(6)開発効果の原則

 スウェーデンは現在、効果的開発協力グローバル・パートナーシップGPEDC)の共同議長国である。インクルーシブなパートナーシップを含む効果的開発協力の諸原則を遵守すべき立場にスウェーデンはある。

 

本書簡は、結論として、DAC市民社会勧告の賛同国に対して、市民社会支援の政策や実践を変更する場合に、勧告を考慮すること、影響を受ける南北のすべてのCSOと対話することを求めている。

 

*注1:DAC市民社会レファレンス・グループ(DAC-CSO Reference Group)は、経済協力開発機構(OECD)開発援助委員会 (DAC)に対する北と南の市民社会組織(CSO)の関与を促進し、調整する。このグループは、OECD-DACの関与に関連する活動、立場、そして進むべき道を計画し、 調整する役割を果たしている。DAC諸国および非DAC諸国のCSOが参加するオープン・プラットフォームとしてのグループの活動は、合意形成、透明性、説明責任という原則に導かれている。
https://www.dac-csoreferencegroup.com/

 

*注2:DAC市民社会勧告は、2021年7月6日に採択され、以下の3つの柱の下に合計28の条項からなる。

  1. 市民社会スぺ―スの尊重・保全・促進
  2. 市民社会への支援・関与
  3. CSOの効果・透明性・アカウンタビリティの動機づけ

執筆者プロフィール

高柳彰夫

高柳彰夫

JANIC政策アドバイザー、フェリス女学院大学国際交流学部教授