2023年05月01日(月)
2022年 先進諸国のODA
研究
経済協力開発機構(OECD)は4月12日に開発援助委員会(DAC)加盟メンバーの2022年(1月1日~12月31日)の政府開発援助(ODA)実績の速報値を発表しました。DACメンバー全体の総額では前年比13.6%増で、4年連続過去最高を更新しました。
その背景にはロシアのウクライナ侵略にともなうウクライナ支援や難民支援がありますが、特にDAC諸国に来た難民支援という、実際には途上国に流れていかない支援によりODAが大幅に増加したことになります。
本稿ではOECDの発表(”Foreign aid surges due to spending on refugees and aid for Ukraine”:)にもとづいて、2022年のDACメンバーのODAの傾向をまとめます。なお、本稿の図表はすべてOECDの発表をもとに作成しました。
なお、2018-19年からのODAの定義や金額の算出方法(「支出純額」(net disbursement)から「贈与相当額」(grant equivalent)に変更)につきましては昨年書いていますので、そちらをご参照ください。またリトアニアが2022年11月に加盟したことで、DACの加盟メンバーは30カ国とEUの31メンバーになりました。
今回発表されたのは速報値です。ここで紹介したデータについても今後修正の可能性はあります。詳細な配分や確定値は12月をめどに発表されます。
ODA額と対GNI比
2022年のDACメンバーのODAの総額は2040億米ドル(26兆8256億円:OECDの2022年の円レート:1ドル=131.498円にもとづく)となりました。これは2021年に比べて13.6%増です。4年連続で歴代最高額を更新しました。対GNI比では0.36%になり、2021年には0.33%でしたからこの点でも向上しました。しかし国際目標は0.7%ですから、それに遠く及ばない状況は続いています。
国別のODA額は図表1の通りです。アメリカのODA額がDAC全体の27%を占め、最大の援助国でした。日本のODA額は急速な円安はありましたが、対前年比19.0%増で、アメリカ・ドイツに次ぐ3位となりました。前年4位だったイギリスの増加は6.7%にとどまり、12.5%増のフランスと順位が逆転して、フランス4位、イギリス5位となりました。
金額と並んで、先進国の国際開発協力の貢献度を表す指標は対GNI (国民総所得)比です(図表2)。国際目標は0.7%で、これは50年以上前からのものですが、SDGs(持続可能な開発目標)のゴール17ターゲット2でも確認されています。国際目標の0.7%を上回ったのは、ルクセンブルグ、スウェーデン、ノルウェー、ドイツ、デンマークの5カ国でした。日本は0.39%で、DAC全体を上回っていますが、国際目標達成には依然として遠い状態です。
難民支援
はじめに書いたように、2022年のDACメンバー全体のODA13.6%増をもたらした要因は、ロシアのウクライナ侵略に伴う難民支援とウクライナへの支援です。 まず難民支援を見てみましょう(図表3)
DACは一定の条件の下で、最初の12か月間に限り、DAC加盟メンバーをはじめ援助国で受け入れた難民に対する支援(In-donor refugee costs = IDRC)をODAとして報告することを認めています。難民条約にもとづく難民や難民申請者であること、人道的な一時的費用に限り難民を自国経済で活用する支援は含まないこと、「控えめに」(conservative)に報告することなどがDACで確認されてきました。
図表3のIDRCの数字にはウクライナ以外の国(シリアなど)からの難民も含まれていますが、ロシアのウクライナ侵略により生じた難民への支援の結果、IDRCがDACメンバー全体のODAに占める割合は2021年の5.2%から2022年には16.7%と大きく拡大しました。チェコ、ポーランド。アイルランドはODAに占めるIDRCの割合が50%を超えましたし、もう7か国が20%以上となっています。
IDRCを除いたDACメンバー全体のODAの増加は4.6%で、13.6%という2022年のODAの増加の多くはIDRCによるものです。8か国(すべてヨーロッパ諸国)では、ODA全体は増加しているものの、IDRCを除くと減少しています。特にODAに占めるIDRCの割合が28.9%のイギリスは、ODA総額は6.7%増でしたが、IDRCを除くと16.4%減です。日本のIDRCのODAに占める割合は、未報告の2カ国を除くとハンガリーに次いで2番目に低いです。
図表3にあるように、ポーランド、チェコ、アイルランド、リトアニアの4カ国はODA額が100%増(倍増)以上となりましたが、いずれもウクライナに地理的に近いかIDRCの割合が高いかの少なくとも一方が当てはまります。
なお、DACとの政策対話の世界のCSOネットワークであるDAC-CSO Reference Groupは、先進諸国は積極的に難民を受け入れるべきとの立場をとる一方で、IDRCは先進国内での難民支援であり、途上国の開発というODAの本来の目的からすれば途上国に流れないIDRCはODAとしてカウントされるべきでないと考えてきました。
ウクライナ支援
旧ソ連の一部であったウクライナは、1993年に旧ソ連の他の諸国とともに経済移行国としてDACのODA対象国のリストに加えられました。その後経済移行国のカテゴリーは廃止されましたが、現在もウクライナは低中所得国としてODA対象国です。
ウクライナは2021年まではDACメンバーから合計10億ドル前後のODAを受け取っていましたが、2022年には経済支援や人道援助などで161億ドルのODAが流れました。上位10か国は図表4にある通りです。
ODAに占める対ウクライナ援助の割合が高い国(10%以上)としては、カナダ(26.4%)、リトアニア(25.2%)、アメリカ(16.3%)、ノルウェー(11.3%)、アイスランド(10.7%)があります。
Covid-19対策(特にワクチン寄付)
2021年のDACメンバーのODAのうち11.8%(昨年4月の速報値段階では10.5%)が新型コロナ(Covid-19)関連(関連保健分野支援、復興支援、ワクチン支援など)でしたが、2022年はCovid-19の状況の改善に伴い5.5%まで減りました(図表5)。日本のCovid-19関連支援は 約16%減でしたが、DACメンバー内では最大の金額でした。
2021年に続き、2022年に関してもワクチンの途上国への寄付、特に自国用に購入したワクチンの余剰分の寄付をODAとカウントすることの可否についてはDAC内でメンバー間で対立しました。結論から言えば、2022年も数えることになりましたが、図表5からわかるように、DACメンバーからのワクチン寄付のほとんどが自国の余剰ワクチン寄付であったことがわかります。なお、DAC-CSO Reference Groupはワクチン、特に余剰ワクチンの寄付をODAとしてカウントすることを批判してきました。
減少した対LDCsとサハラ以南アフリカ援助
所得階層別にみると、2022年は後発開発途上国(LDCs)向けのODAは前年比0.7%減となりました。これに対して低中所得国(LMICs)向けは、ウクライナがLMICsであることもあって52.8%増、高中所得国(UMICs)向けは1.4%増でした。またサハラ以南のアフリカ諸国向けのODAは7.4%減でした。ウクライナ支援やIDRC増加の一方で、LDCsやサハラ以南アフリカ向けのODAが減額していることは憂慮すべきことです。
借款
2022年はDACメンバーのうち10か国が二国間借款を報告しています。その合計の贈与相当額(供与額Xグラント・エレメントで、借款の実額ではない)は合計142億ドルになります。そのうち90億ドルが日本によるもので、日本は借款の額において突出しているといっても過言ではありません。二国間援助において日本のODA額の61.5%が借款でしたが、DACメンバーで二国間ODAの半分以上が借款のところは他にありません。
今後の展望
2022年はDACメンバーのODA総額は13.6%の増加となり、歴代最多を更新しました。対GNI比も0.36%に向上しました。しかしながら、増額の多くはIDRCとウクライナ支援によるものです。IDRCを除くとODA額が減っている加盟国もあります。DAC全体でみれば、途上国の開発に向けた資金のIDRCとウクライナ支援への転用が起きたとは言えませんが、個別の加盟国では起きた国もあると考えられます。
Covid-19の状況改善に伴って、関連支援は減りました。同様にウクライナをめぐる状況やその他の紛争が改善すればIDRCは減少することになり、それが早く起きることが望まれます。一方でウクライナ復興には現時点で4110億ドルが必要(2023年3月現在の世界銀行の推計)とされます。2022年のDACメンバーのODAの総額の2倍の額です。ウクライナ復興にはさまざまな財源が考えられますが、ODAもその一つです。ウクライナ復興支援は追加的資金で行われるべきであり、途上国に対する開発支援の転用であってはなりません。
ここ3年間、Covid-19やウクライナといった危機により、ODAの総額や対GNI比は向上しました。しかしこうした危機対応は、Covid-19対応のように状況の改善に伴って減っていくのが自然なことです。危機によりODAが増えても対GNI比0.7%の国際目標には程遠いのです。莫大になることが予想されるウクライナ復興支援の資金確保とともに、SDGs達成や貧困削減をはじめとした地球規模の諸課題への長期的な取り組みのためのODAをいかに安定して確保していくのか、が課題であることは言うまでもないことです。