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2023年02月14日(火)

活動現場と学校教育をつなぐ 佐賀県で「グローバル人財育成」を実践

鬼丸 昌也

「すべての生命が安心して生活できる社会(世界平和)の実現」を目的に掲げ、2001年にたった一人で設立したテラ・ルネッサンス。それから約20年。カンボジアでの地雷除去、地雷被害者支援から始まり、ラオスでの不発弾被害地域の生活再建、ウガンダ、コンゴ(民)、ブルンジでの元子ども兵や紛争被害者の自立支援、東日本大震災被災地での復興支援など、多岐にわたる活動を世界7カ国で、約100名の仲間とともに展開しています。

2021年にさらに活動を進化させることを決意して始めたチャレンジの一つが、「グローバル人財育成」という教育事業です。

これまで講演を通じて、社会課題やその背景に関心を持ってもらうことを、続けてきました。のべ20万人に聴いてていただき、中には国際協力の道に進んだ学生や、事業を通じて社会課題解決を目指す経営者が現れるなど、一定の成果を収めてきました。ただ、一回の講演では、一過性の関わりしかできないため、次第に、関心が薄れてしまう傾向にあることを危惧していました。

そんな中、佐賀県の東明館学園に私の友人である荒井優さんが理事長として着任し、一人ひとりの生徒に寄り添った学校改革を始めました。

そのひとつが、2020年4月に設置した「探究コース」です。社会の課題を解決したり、多様な人と協働したりしながら、新たな価値を創り出すという強い意志で未来を生き抜くための持続的な学びをします。探究コースを通じて「やりたいことを形にすることができる生徒」を育むことにチャレンジしているのです。

荒井さんを始めとする学園関係者との打ち合わせを重ね、グローバル人財の育成が重要だという認識で一致しました。そして、テラ・ルネッサンスと東明館学園は包括連携協定を結び、共同で授業プログラムの開発・実施を行うことになったのです。テラ・ルネッサンスにとって、創設以来初めてとなる学校法人と包括的連携協定でした。

まずは、探究コース2年生(当時)に対して1年半の学習プログラムを提供することが決まりました。

このプログラムは、問題解決型学習(Project Based Learning)の手法を取り入れて実施します。「ウガンダの元子ども兵の社会復帰支援」、「カンボジアの地雷被害者の自立支援」を題材に、テラ・ルネッサンスの日本国内の職員のみならず、ウガンダ、カンボジアの日本人駐在員、現地スタッフも関わっていくことになりました。

例えば、ウガンダの「元子ども兵の社会復帰プログラム」については、活動の中で生じている問題を、東明館の高校生に提示し、その問題を解決するためのアプローチを考えてもらいます。

そして、彼らが考えた支援計画を、実際にウガンダの支援の現場で現地のスタッフが実行。その成果を、また生徒にフィードバックするという、「実践的」な問題解決学習です。

さらに、探究コースでは、テラ・ルネッサンスが担当する授業(科目)以外の全ての科目も「ウガンダの元子ども兵の社会復帰支援」、「カンボジアの地雷被害者の自立支援」を題材とした「問題解決型学習」の手法を採り入れています。例えば、英語では、「地雷問題」を学ぶことができる教材を、教師が独自に研究して開発し、授業に活用しています。国語では、「子ども兵」に関する小論文の執筆を、数学や物理・化学の理系科目では、電力不足解消に役立つ「圧力発電」や農業肥料として活用できる「コンポスト」について学んでいました。

このように、生徒たちは具体的な問題・課題に取り組むことを通して、それぞれの教科で身につけるべき知識や能力を学びます。生徒たちは、半年間の学びを経て、ウガンダ、カンボジアでの支援計画を立案しました。そして2022年3月16日に行われた全校生徒向けの発表会では、堂々とその計画をプレゼンしました。それは決して、「恵まれない人々に対する同情」から始まる支援計画ではなく、同じ人間として何かできないかという共感から始まる支援計画でした。それは、半年間に渡る実践的な「学び」の積み重ねの結果だと感じます。

ウガンダの子ども兵、カンボジアの地雷といった、具体的な社会課題を題材にした「学び」を実現できたのは、テラ・ルネッサンスが20年もの間、支援を積み重ねてきたことによるものだと、実感しています。

今まで、多くの方々の支援によって支えられ、展開してきた「国内外での支援」と「国内での啓発(講演)活動」に加えて、新たに「日本と世界の未来を担う若者の人財育成(教育)」を開始することができました。今後は、同学園との授業プログラムを、日本国内だけでなく、台湾やタイなど海外においても、若者たちに提供していきたいと構想しています。

平和が脅かされる今、どんな事態になっても「平和をあきらめない」と覚悟し、自ら平和をつくりだす「担い手」を、世界中に育むことが急務であり、それこそがテラ・ルネッサンスの仕事だと信じています。

<鬼丸 昌也>
認定NPO法人テラ・ルネッサンス創設者・理事。大学在学中にカンボジアで地雷被害の現状を知り「すべての活動はまず『伝える』ことから」と講演活動を始める。また、大学在学中に「全ての生命が安心して生活できる社会の実現」を目的に「テラ・ルネッサンス」設立。カンボジア・ラオスでの地雷や不発弾処理支援、地雷埋設地域の生活再建支援、ウガンダ・コンゴ・ブルンジでの元子ども兵や紛争被害者の自立支援をしている。2022年、NPO法人国際協力NGOセンター(JANIC)の理事長に就任。

(ウィークリーコラムは個人の見解に基づく記事であり、THINK Lobbyの見解を示すものではありません)

執筆者プロフィール

鬼丸 昌也