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2022年07月27日(水)

2021年 先進諸国のODA

高柳 彰夫

毎年4月の第2週あたりに、OECD(経済協力開発機構)はそのDAC(開発援助委員会)加盟メンバー(現在は29カ国とEU)の前年(1月1日-12月31日)のODA実績の暫定値を発表します。今(2022)年は4月12日に発表がありました(OECD, “ODA Levels in 2021 Preliminary data”)。ここではその発表をもとに、2021年のDACメンバーのODAの動向を紹介します。本稿の図表はすべてOECDの発表にもとづいて、筆者が作成しました。

なお、毎年4月の発表には各国の細かい配分(地域・国別や部門別など)は発表されず、詳細な配分が発表されるのは毎年12月です。しかし、新型コロナウィルスの中で、一部加盟メンバーの統計不備や、OECD事務局におけるスタッフの欠員補充の遅れなどにより、本来は2021年12月に発表されるはずの2020年の詳細な統計が、ようやく2022年6月に更新されました。

ODAの定義と算出方式:2018年から変更

2021年の数字の紹介の前に、日本ではあまり報道されてこなかったこととして、2019年4月発表の2018年実績から、ODAの定義と金額の算出方式が変更になっていることをおさえておく必要があります。ODAの定義は、従来は、

① 政府ないし政府の実施機関によって供与されるものであること

② 開発途上国の経済開発や福祉の向上に寄与することを主たる目的としていること

③ 資金協力については、その供与条件が開発途上国にとって重い負担にならないようになっており、グラント・エレメントが25%以上であること

でしたが、③が変わり、

■LDCs(後発開発途上国)では45%以上であること

■低中所得国では15%以上であること

■高中所得国では10%以上であること

となりました。

また金額の算出方式が、「支出純額」(net disbursement)から「贈与相当額」(grant equivalent)に変更になりました。大雑把に言えば、

■支出純額=支出した総額―借款の返済額

■贈与相当額=贈与の金額(X100%)+借款Xグラント・エレメント

です。従来は、贈与と借款の金額を単純に合計して返済時にマイナスしていたものを、新しい方法では、支出時に借款としてパートナー国(受け取り国のことをDACでは最近このように言います)に負担をかける分をマイナスにして、その代わりに返済分を減額するのはやめた、ことになります。

歴史的に借款の比率がDACメンバーの中で際立って高かった日本は、従来の支出純額方式では借款の返済によるマイナスが多かったのですが、それがなくなったため、新しい「贈与相当額」方式による2018年実績は、従来の「支出純額」方式に比べて40%も多くなりました。他の諸国では2つの方式の違いが大きい国でも10%程度の違い、ほとんどのメンバーは微増か、微減でしたので、新旧法式での金額の相違の点で、日本は目立つことになりました。

ODA額と対GNI比

2021年のDAC加盟29カ国のODA の総額は、過去最高の1789億ドル(19兆6350億円。2021年のOECDの1ドル=109.475円の換算レートにもとづく)で、前年比4.4%の増加です。これを国別にみていきましょう(図表1)。

日本は前年比12.1%増で、イギリスが21.1%減であったため、日本はイギリスを抜いてDAC諸国で第3位の援助国となりました。

金額と並んで、先進国の国際開発協力の貢献度を表す指標は対GNI (国民総所得)比です(図表2)。国際目標は0.7%で、これは50年以上前からのものですが、SDGs(持続可能な開発目標)のゴール17ターゲット2でも確認されています。


2021年は、対GNI比が1.0%を超えた国はなく、0.7%を超えた国でも、2020年は0.7%実施したイギリスが、COVID-19対策でODA予算を減らし0.5%しか実施しないことを表明したため、1カ国減り、ルクセンブルグ、ノルウェー、スウェーデン、ドイツ、デンマークの5カ国となりました。2020年には1.14%でトップだったスウェーデンは0.92%に大幅に減りました(ODA額は15.7%減)。グリーン気候基金(GCF)への多年度支出を2020年に一括拠出したことが一因です。日本は前述した贈与相当額への移行により、2018年実績から対GNI比も高くなり、2021年はDAC合計を上回る0.34%でした。

借款

2021年は、借款を行ったDAC加盟国は29カ国で、その贈与相当額(供与額Xグラント・エレメントで、借款の実額ではない)は合計120億ドルになります。そのうち75億ドルが日本によるもので、フランス(22億ドル)、ドイツ(13億ドル)、韓国(8億ドル)が続きます。借款の贈与相当額が贈与の額を上回った国は、DACの中で日本だけです。

COVID-19対策

OECDの発表では、ODAにおけるCOVID-19 対策の支出についても触れられています(図表3)。COVID-19対策(関連保健分野支援、復興支援、ワクチン支援)はDAC加盟国のODAの10.5%を占めます。ニュージーランド、カナダ、日本の3カ国が20%を超えています。

このうち、大きな論争となったのはワクチン寄付をODAとしてカウントすることを認めるかどうか、です。自国用に購入したワクチンの余剰を寄付したのは、日本を含む21カ国で23億ドル、パートナー国に寄付するために購入したワクチンが35億ドル(ほとんどがアメリカ)で、この他、図表3にはありませんが、パートナー国のワクチン購入補助として5億ドル(ほとんどがアメリカ)があります。ワクチン寄付額の合計は63億ドル(6900億円)です。本稿の最初で、2021年のODAは2020年比で4.4%増加したと書きましたが、増加分の36%がワクチン寄付によるものです。

いくつかの加盟国や世界のCSOは、ワクチン寄付、特に余剰ワクチン寄付をODAとしてカウントすることに反対してきました。先進国によるワクチン買い占めが途上国におけるワクチン普及の遅れの要因となったのにもかかわらず、自国での余剰ワクチン寄付をODAとしてカウントすることで、あたかも途上国のワクチン普及に貢献したように見せることは容認できないという主張です 。2021年分については暫定的にカウントすることを認めました。2022年以降についてどのようにするのかは、DACの統計関係の専門会議で、本稿執筆時点で合意ができていません。


定住難民支援

日本は難民の受け入れをほとんど行ってきませんでしたので、定住難民支援がODAでどう扱われるかは話題になることがあまりありません。DAC諸国が定住難民を受け入れた場合、細かい条件がありますが、1年目の定住支援に限りODAとしてカウントできます。これについても、途上国の開発目的というODAの趣旨から、CSOはODAとしてカウントすることには否定的です。

日本のODAに占める定住難民支援はわずかですが、2021年のDAC加盟国のODAの5.2%に当たる93億ドル(約1兆円)です。金額として多い国は、ドイツ(27億ドル)、アメリカ(15億ドル)、イギリス(12億ドル)、フランス(11億ドル)。ODAに占める割合が高い国としては、アイスランド(12%)、ベルギー(10%)、イタリア(9%)、ドイツ(8%)があげられます。

2022年の展望

2022年のODA実績は、2023年4月に暫定数値が発表されることとなります。2022年2月にロシアによるウクライナ侵略が発生し、人道支援の大きなニーズが発生しました。スウェーデンが5月16日にウクライナ危機対応のためODAを20%減額することを発表し、他のヨーロッパ諸国の間でも類似の動きが出ています。ウクライナ関連の人道支援は、ODAとしてカウントできるもの(例:定住難民支援=その是非について再度議論になりそうです。DACでODA対象国である隣国モルドバでの人道支援活動。もともとODA対象国であるウクライナでの国内避難民支援)、カウントできないもの(例:DAC諸国や、ルーマニアなどDACに加盟していないがODA対象国となっていない国での避難民支援などの人道支援活動)がありますが、今後カウントの可否が問題となる事案は出てくることが考えられます。そして何よりもヨーロッパ諸国を中心にODA全体にウクライナ危機が与える影響が心配されます。

またCOVID-19関連では、ワクチン寄付のカウントのあり方などが引き続き議論されるでしょう。

COVID-19により、2020年の世界の極度の貧困人口は7.14億人で、2019年の6.41億人から増えました。極度の貧困人口が増えるのはアジア経済危機直後の1998年以来でした。2022年の極度の貧困人口も、COVID-19 以前の予想よりも7500-9500万人程度増えると見込まれています(国連『SDGsレポート2022』より)。

さらに気候変動に関しては、2030年の削減目標を達成しても、世界の平均気温が今世紀末には2.7度も上昇する危険性が指摘されています。グローバルな諸課題に対応する資金としては、ODAがもっとも安定したものです。COVID-19に加え、ウクライナ危機という新たな要因が加わる中で、ODAとその本来の目的をいかに守っていくのかは世界の大きな課題です。

執筆者プロフィール

高柳 彰夫