2023年07月11日(火)
JANIC/THINK Lobby 「公正な社会の実現のための企業行動チェックリスト」を発表 企業による自己評価方式、7月からパイロット版で試行開始
研究
普及
企業がサステナブルな経済活動を行うためには、関係するすべての人々の権利が守られていることが重要である、との考え方が今、世界で注目されています。公正な社会を築き、維持するためには、経済活動に多大な影響力を持つビジネスセクターの役割がますます重要になっているのです。
NPO法人国際協力NGOセンター(JANIC)と、そのアドボカシー部門を担うTHINK Lobbyは、2022年4月から、市民社会と企業が協力して公正な社会を実現するための「コーポレート・ソーシャル・ジャスティス(CSJ)プロジェクト」に取り組んでいます。このたび、その成果の一つである「企業行動チェックリスト」のパイロット版が完成、6月23日にその報告会を兼ねたオンラインセミナーを開催しました。
企業の行動、どうチェックする?
セミナーではまず、チェックリスト誕生の背景として、THINK Lobbyの敦賀和外リサーチャーが、ビジネスと人権をめぐる国際的な潮流を解説。「#MeToo」や「Black Lives Matter」などの運動を引き起こした人種差別に対し、企業が自らの姿勢や立場を明確に表明することが相次いでいることが紹介されました。また、世界を見渡すと、民主主義や市民社会の活動が制限され活動家が抑圧されたりすることが増えており、ビジネスを行う土台となる公正で自由な社会が危機に立たされていることや、強制労働を含む現代奴隷制の被害者が世界で4960万人(2021年時点)存在していることに触れ、問題解決には企業の積極的関与が求められていると指摘しました。
続いてTHINK Lobbyの土井陽子プロジェクトコーディネーターが、作成された「公正な社会の実現に向けた対話のための企業行動チェックリスト」についてその内容を解説しました。
チェックリストは、「国連ビジネスと人権に関する指導原則」と「SDG16:平和と公正をすべての人に」を軸に構成されています。チェックリストが対象とする行動領域は、「人権」「環境・気候変動」「コンプライアンス・公正な事業慣行」の3つのカテゴリーに分けられ、さらに、以下の10項目に示されます。
①ステークホルダーの人権尊重
②自社特有の人権リスクへの対応
③ステークホルダーの多様性、包摂性、公平性、公正性の尊重
④環境への権利の尊重と脱炭素社会への公正な移行
⑤汚職贈賄の防止
⑥適正な納税
⑦適正な政治活動
⑧国際規範に沿った法の支配の尊重
⑨ステークホルダー、特にライツホルダーとの対話
⑩負の影響を受けた人々に対する救済へのアクセス
これらの行動領域で企業がどのようにコミットメントを表明しているのかを明らかにし、その実現のための具体的な取り組みがどの程度できているかを評価するのが、チェックリストです。5つの評価テーマと評価項目は次の通りです。
①公正な社会の実現に向けたコミットメント
②コミットメント実現のための推進体制づくり
③コミットメント実現のための社内コミュニケーション
④コミットメント実現のためのサプライチェーンにおけるコミュニケーション
⑤コミットメント実現のためのステークホルダー、特にライツホルダーとの対話・エンゲージメント
それぞれの評価項目内にさらに小項目があり、全部で40項目のチェックリストとなります。
これらのチェックをするのは企業自身です。当初は企業の公開情報に基づき市民社会側が評価をする形を想定していましたが、そのような他者による評価は必ずしも企業に受け入れられないとのヒアリング結果に基づき、最終的に「評価基準を明示した、企業自身による自己評価」という形がとられました。企業はリストの評価基準に沿って自社の取り組み状況に〇△✕をつけながら、さらに〇となる企業の先進事例を参照できるつくりになっています。
土井氏は、チェックリストの活用により、「企業活動が個人や社会に害を及ぼさないことにとどまらず、積極的な事業や価値の創出、一企業を超えて業界や社会全体に好影響をもたらすことが期待される」と、話しました。
チェックリストは7月以降、パイロット版による試行が実施され、その結果を踏まえて11月以降に完成する予定です。
「グローバルな企業には必須」、「自己評価で内輪に閉じぬよう注意」
チェックリストの解説の後、THINK Lobbyの若林秀樹所長、りそなアセットマネジメント常務執行役員・責任投資部担当の松原稔氏、UNDPビジネスと人権リエゾンオフィサーで弁護士の佐藤暁子氏により、「公正な社会の実現に向けて求められる企業の行動」と題した鼎談が行われました。
松原氏は、「国内の企業の中にはチェックリストを見て、『ここまでやるのか』と思う企業も多いかもしれないが、海外の投資家との間ではすでにこうした議論は行われており、チェックリストが示すような枠組みは、いずれ日本にやってくる。特にグローバルな事業活動をしている企業は、いち早くこの動きを察知することが大事だ」と、述べました。
また、「企業の多くは、創業者が何かしらかの社会課題を解決しようとして始まっている。したがって、創業の理念と、公正な社会の実現に向けたコミットメントを結びつけることは難しくない。社員も、自分の生活を豊かにすることだけでなく、企業に参画することで実現したいことがあるから入社したのだろう。それが何かを問いかけ続けることで、『私の物語』と『私たちの物語』が同化し、企業文化として育まれていくのだと思う」と指摘。公正な社会の実現に向けたコミットメントを「企業文化」に昇華させることは可能だ、という考えを示しました。
一方、佐藤氏はチェックリストを企業自身による自己評価で進めることについて、「自分たちで積極的に課題を探しにいくことが重要だし、その気持ちがなければ意義深いものにはならない。自己評価により、まず内部の議論を開始することは有効だと思う。ただ、それが内輪で閉じてしまわないように、例えばどのような対応策ができたのかをステークホルダーに見せていくことなどが必要だ」と、指摘しました。
また、CSJプロジェクトが公正な社会の実現に向けたプロセスで重視する「企業とライツホルダーとの対話」については、「ライツホルダーとはだれなのか、ピンと来ていない人も多いのではないか。企業の事業活動で影響を受ける人たちということだが、その中でも負の影響を受ける人、なかでも深刻に受ける人、と掘り下げて探していくことが大事だと思う。掘り下げるために、どんなところに課題があるのかを発信するNGOや国際機関の情報も利用してほしい」と述べました。
若林氏は、「企業で働く人々も企業人である前に一市民である。市民社会の一員として手を携えながら社会を変えることができる、という感覚を一緒に持ってほしい。社会の中の企業の役割は大きく変化してきている。その動きの中にビジネスの進展があるのだから、先を読んで動くことは重要だ」と、述べました。
※イベントの開催概要はこちらです。
【セルフチェック活用企業募集中!】
JANIC /THINK Lobbyでは、上記でご紹介したCSJプロジェクトによる「公正な社会の実現のための企業行動チェックリスト」を活用いただける企業を募集しています。詳しくはこちらまでお尋ねください。
メールアドレス:csj_thinklobby@janic.org
担当者:山口