2024年12月25日(水)
【特別コラム】2024年、私たちの話題7選
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2024年、JANIC/THINK Lobbyはさまざまな社会課題に取り組み、持続可能で公正な社会の実現に向けた活動を続けてまいりました。
この一年の活動を振り返りながら、社会の動きと共にTHINK Lobbyが注目した7つのテーマを紹介します。
2025年も、引き続きみなさまと共に社会の課題に立ち向かっていきます。
目次
ノーベル平和賞:日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)が受賞
2024年のノーベル平和賞は、核兵器の使用禁止と廃絶を求めてきた「日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)」が受賞しました。同団体は1956年の結成以来、被爆者の証言活動や国連などの国際的な場での働きかけを続けてきました。その活動は、原水爆被害の悲惨さを世界に繰り返し訴え続け、次世代へ語り継ぐもので、世界中に共感と感銘を与えてきました。ノーベル委員会は、核兵器が使用されかねない国際情勢の中で、核兵器は使われてはならないという「核のタブー」規範を広めてきた功績を授賞理由として挙げています。12月10日にノルウェーの首都オスロで開催された授賞式には、多くの日本被団協関係者が出席できるよう、クラウドファンディングも実施され、5,000人以上の支援者から寄付が集まりました。
2023年5月に広島で開催されたG7サミットでも、核兵器廃絶を願う市民社会の政策提言がCivil7で取り上げられ、G7議長を務めた岸田総理大臣(当時)と被爆者の面会も実現しました。
JANICは、2017年にノーベル平和賞を受賞した「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」や、2024年4月に発足した「核兵器をなくす日本キャンペーン」とともに、日本の市民社会の一員として、核兵器廃絶に向けた取り組みを引き続き支援していきます。
参考:【声明】祝「日本被団協」ノーベル平和賞受賞、核兵器廃絶に向けた新たな力に!(2024年10月15日)
国連未来サミット:国連を中心とした多国間主義に基づく国際協力の重要性を再確認
9月22日・23日、ニューヨークの国連本部で「国連未来サミット(Summit of the Future)」が開催されました。未来サミットの初日には、成果文書として56のアクションを含む「未来のための協定(Pact for the Future)」と2つの付属文書がコンセンサスで採択されました。また、直前の9月20日・21日には、NGOを含む多様なステークホルダーによる「アクション・デイズ(Action Days)」と称するサイドイベントが国連建物内外で開催され、幅広い課題について議論が展開されました。JANIC/THINK Lobbyも、国際的NGOネットワークのForusや、日本の市民社会グループであるSDGs市民社会ネットワーク(SDGsジャパン)とともに、市民社会の声を未来サミットに届けました。
未来サミットの開催は、2020年に新型コロナウイルス感染症が世界的に蔓延し、様々な社会課題が顕在化したことに端を発します。国連設立75周年を機に、加盟国が国連事務総長に現在および未来の課題に対処する提言を求めたところ、事務総長は「私たちの共通の課題(Our Common agenda)」という報告書を発表し、その中で未来サミットの開催を提案しました。
近年、多国間主義による国際協力や国連のガバナンスが十分に機能していない現状が浮彫になっています。ロシアによるウクライナ軍事侵攻やガザ紛争が起こり、地政学的な分断がさらに進むなか、国連安全保障理事会では常任理事国による拒否権行使が相次いでいます。気候変動に関するパリ協定等の国際的な合意がなされてはいるものの、2030年までに達成が見込まれる「持続可能な開発目標(SDGs)」は全体のわずか17%程度にとどまると報告されているように、その取り組みは必ずしも計画通りに進展していません。
これらの課題を踏まえ、未来サミットの最大の焦点は、国連を中心とする多国間主義による国際協力を強化し、SDGsなどの国際目標達成を促進しつつ、国連に対する信頼を回復できるかどうかでした。
今回採択された協定の実現には、加盟国の政治的意思と実行力が問われますが、市民社会もその実現に向けて取り組む必要があることは言うまでもありません。
G7・G20サミットと市民社会の活動
2024年、G7サミットはイタリアが、G20サミットはブラジルが議長国を務め、それぞれ開催されました。市民社会の活動は、G7に対応するCivil7(C7)をイタリアのGCAP Italyが、G20に対応するCivil20(C20)をブラジルのAbongおよびGESTOSが主導しました。
5月にローマで開催されたC7サミットには、日本の市民社会組織がクラウドファンディング「G7サミットに日本の市民社会の声を届けるプロジェクト」を通じて2名分の渡航費を確保し、計4名が参加しました。11月のリオデジャネイロでのC20サミットには、THINK Lobby副所長の堀内葵が参加し、ブラジルや南アフリカの市民社会組織と交流し、2025年以降のC20運営に向けた意見交換を行いました。
G7・G20サミットでは、平和、世界経済、気候変動、保健、地域情勢、格差の拡大などの深刻な課題に対する処方箋が議論されましたが、市民社会からは辛辣な批判が相次ぎました。
2025年のC7サミットはカナダの市民社会ネットワーク「Cooperation Canada」が運営を担当し、日本からは2023年・2024年に引き続き、堀内が運営委員を務めます。また、南アフリカでのC20にも関与していく予定です。
第13回国連ビジネスと人権フォーラム:ステークホルダーエンゲージメントのセッションで、ファーストリテイリングと登壇
2024年11月25日~27日、国連ジュネーブ事務所で、第13回国連ビジネスと人権(BHR)フォーラムが開催され、過去最高となる約3千人が世界中から集まりました。JANIC/THINK Lobby所長の若林も、今回はグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)の理事として、多くの日本企業・専門家・市民社会のメンバーとともに参加しました。
今回のテーマは、「スマートミックス」。これは、「ビジネスと人権」の取り組みには、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」などの国際規範に基づく自主的な取り組みと、強制力をもたせた法的な規制を組み合わせることで、より効果的な政策を実現する重要性を示しています。EUでは、2024年7月に「企業サステナビリティ・デュー・ディリジェンス指令」が承認され、人権や環境に関するデュー・ディリジェンスの実施などが義務化されました。この動きは、日本企業にも大きな影響を与えることになります。
また、ステークホルダーエンゲージメントが注目されました。これは、企業が人権デューディリジェンスの実施において、事業活動に関わるステークホルダー(市民社会をはじめとする利害関係者)と有意義な対話を行い、相互理解や協働を進める取り組みを指します。その関連セッションでは、若林が、ユニクロをメインブランドとするファーストリテイリングの渡橋(おりはし)氏とともに登壇し、日本における取組についてプレゼンテーションを行いました。
国際協力の分野でも、グローバルなサプライチェーンで影響力を持つ企業との対話の重要性はますます高まっています。JANICでは引き続き、市民社会と企業の連携を促進し、人権課題への取り組みを支援していきます。
CIVICUS報告書:日本の市民社会スペースに対する評価が格上げされる
2023年10月に激化したパレスチナ・ガザでの紛争は、国際社会の度重なる停戦呼びかけにもかかわらず、イスラエル政府による軍事侵攻が続いています。この状況を受け、パレスチナで活動する日本のNGOが中心となって呼びかけた「停戦を、今すぐに。」声明(2024年10月2日発表)には、JANICも「市民社会スペースNGOアクションネットワーク(NANCiS)」の一員として賛同しました。
戦争は人権侵害を引き起こし、人々の平穏な生活や命、財産を脅かします。どのような理由があっても戦争に反対する声を上げ続ける必要があり、その声が上げられない社会は「市民社会スペースが狭められている」と言えます。
日本国内では、反戦デモや沖縄の米軍基地移転に関する抗議、女性差別反対、在住外国人や難民の権利保護を求めるデモ、さらには気候変動対策を政府に訴えるデモなどが頻繁に開催されています。また、最近では、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の弾劾を求めるデモも日本で行われました。
こうした状況を踏まえ、世界の市民社会スペースを調査・研究するCIVICUSが2024年12月に発表した報告書では、日本の市民社会スペースが5段階評価のうち上から2番目である「狭められている(Narrowed)」から、最上位の「開かれている(Open)」へ格上げされました。報告書によれば、「市民社会グループが全国的に障壁なく活動を行うことができた。平和的なデモの参加者も、ほとんど制限を受けることなく権利を行使することができた」ことが格上げの理由とされています。
ただし、日本の状況は以前から限りなく「開かれている」に近い評価でしたので、大きな変化があったわけではありません。また、実際に日本で活動する市民社会組織の実感としては、この評価が必ずしも現実を反映しているわけではないとの声もあります。
開発・気候資金の拡充に向けたアドボカシー
急速に進行する気候危機や新型コロナウイルス感染症の世界的蔓延、各地での紛争を背景に、開発途上国での資金不足が指摘されています。日本政府は、IMFや世界銀行、アジア開発銀行(ADB)への主要出資国であり、世界経済や金融の安定について議論するG7/G20の一員として大きな発言権を有するため、「国際財政構造」における重要なプレーヤーです。一方で、現在の国際財政構造は経済先進国に有利に働いており、この構造をより公平で持続可能なものへと変革することが求められています。世界のNGOは、開発資金や気候資金の拡充を目指して政策提言を行っており、日本のNGOもこれに呼応して政府への提言活動を積極的に展開しています。
こうした中、JANICはアフリカ日本協議会およびグリーンピース・ジャパンと連携し、「開発・気候資金アドボカシープロジェクト」を2023年度後半から開始しました。このプロジェクトは、気候変動や社会開発に取り組む多様な市民社会団体間の情報共有や連携を促進し、新たな政策提言やキャンペーンを生み出すことを目的としています。
プロジェクトの主な目標は、グローバルサウス(南側諸国)に投資される気候変動資金の大幅な増加と、IMFや世界銀行、G20などが構築する「国際財政構造」をより民主的で公平なものに変革することです。そのため、日本国内で市民社会や若者の強力なネットワークを構築し、国際財政構造とグローバルな金融の流れを改革するよう意思決定者に直接働きかけを行います。
2024年度には、7月と12月の2回にわたりネットワーク会合が開催され、30団体以上が参加しました。この場では、開発資金や気候資金に関する国際的な最前線の議論を共有し、日本国内での政策提言や普及啓発活動のアイディアを練りました。なお、本プロジェクトが設置する「持続可能な開発資金枠組み達成に向けた市民社会ネットワーク」(略称:JFFネットワーク)への参加団体も随時募集しています。
石破政権誕生、スフィアと防災庁に注目
石破総理大臣は10月4日の所信表明演説で、近年の災害の頻発化・激甚化に対応するため、内閣府防災担当の機能強化や防災庁設置の準備を進める考えを示しました。また、「避難所の満たすべき基準を定めたスフィア基準を踏まえつつ避難所の在り方を見直」すと発言したことを受け、内閣府(防災担当)による能登半島地震の避難所でのスフィア基準適応状況の調査が実施され、その結果が公表されるなど、スフィア基準がにわかに注目を集めています。
スフィア基準は、被災者の声明、尊厳、安全を尊重した支援のための国際基準であり、 内閣府(防災担当)が発行する「避難所運営ガイドライン」(2016年4月)でも参考基準として紹介されてきました。2024年12月にはこれが「避難所運営等避難生活支援のためのガイドライン(チェックリスト)」として改定され、さらに踏み込んでスフィア基準の基本指標が引用されています。加えて、同時期に改訂された「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」でもスフィア基準が参照されました。スフィアへの注目度の高まりが、よりよい支援につながることを期待します。
一方で、スフィア基準=数値基準」と誤解されている事例も見られます。災害支援に携わる関係者に正しく理解されるよう、周知と実践が引き続き課題となっています。
JANICが事務局・幹事団体を務める「支援の質とアカウンタビリティ向上ネットワーク(JQAN)」では、スフィア基準や「人道支援の必須基準(CHS)」など、人道・開発支援における質や説明責任を高める基準の翻訳、情報発信、研修を実施しています。最近の関心の高まりを受け、JVOAD(全国災害ボランティア支援団体ネットワーク)と連携し、勉強会の開催なども計画中です。
防災庁の設置に向け災害への備えがさらに強化されることから、支援の質の向上を目指し、関係者と連携しながら国内での啓発・周知活動を続けていきます。