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2025年04月17日(木)

VNR案に対するパブリックコメントを提出

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お知らせ

提言

堀内葵

日本政府は、2025年7月に開催される国連閣僚級ハイレベル政治フォーラム(HLPF)において、2021年に続き3回目となるSDGs進捗報告書「自発的国家レビュー(VNR)」を発表します。政府とSDGs推進円卓会議民間構成員によって作成されたVNR案に対するパブリックコメントが3月19日(水)から4月18日(金)まで募集されています。

https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/detail?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&Mode=0&id=350000220

 

このたび、国際協力NGOセンターはVNRに対するパブリックコメントを提出いたしましたので、以下の通り公表いたします。


(全般)

  • SDGsの本質は、2030アジェンダの前文に示されているように、「誰一人取り残さない」、「すべての人々の人権の実現」であり、その本質に正面から向き合うことなく、言葉の使用さえ避けているように思われます。「人間の安全保障」も、パブコメ案では、パブコメ案では「人間の安全保障」の理念に基づくとあるだけで、その概念そのものの説明と、人権との関係性が不明確です。 
  • p.67以降の「5.各目標の達成状況」「日本政府による進捗評価」において、達成度が低いターゲットや指標について、より掘り下げてその背景や理由を含めて記述すべきです。
  • 外務省のウェブサイト「Japan SDGs Action Platform」の「SDGグローバル指標(SDG Indicators)」において、目標16に関するグローバル指標は26あり、そのうち、政府データが掲載されているものは半数の13に留まっています(*1)。また、目標17についてはVNR作成と同時に、グローバル指標のデータ整備を進めるべきです。

 

(目標16)

  • p.106以降の目標16「平和と公正をすべての人に」に関して、(1)暴力と、暴力による死の減少、(2)児童虐待対策・こどもに対する暴力撲滅、(3)国際協力、(4)国連PKOにおける協力の4点が取り上げられています。これに加え、「法の支配」、「汚職・贈賄の減少」「説明責任のある公共機関」「包摂的・参加型の意思決定」「グローバルガバナンス」「情報への公共アクセスと基本的自由」など、他のターゲットについても日本国内および国際協力における達成状況を記載すべきです。
  • 特に、グローバル指標16.a.1「国内人権機関の設置」について、現在の国内での状況を記載すべきです。

 

(目標17)

  • p.109では、2023年の日本のODA実績について、「対国民総所得(GNI比) では、2010年は0.20%だったが、2023年には0.44%になった。また、2023年のLDCs向けODA実績のGNI比は、0.09%(支出純額ベース)であった」と記載されていますが、目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」のターゲット17.2では「先進国は、開発途上国に対するODAをGNI比0.7%に、後発開発途上国に対するODAをGNI比0.15~0.20%にする」とされており、日本政府は本ターゲットを達成していないことが明らかです。ターゲットと比較し、ODA実績が目標に達していないことを明記すべきです。同時に、SDGsの達成期限である2030年までにどのようにODAを増額して目標達成に近づけていくのか、具体策や道筋を示すべきです。

 

(横断的な課題)

 ビジネスと人権

  • 2023年夏に行われた国連「ビジネスと人権(BHR)」作業部会による調査で指摘されているように、BHRの指導原則(UNGPs)の第一の柱は、国の人権保護義務であり、その義務が以下の点で果たされていません。
    • UGNPSの取り組みは、大手企業を中心に取り組みが進んでいるが、東京や大阪以外の地域および中小企業での取り組みが進んでいない。
    • UNGPsの取り組みは、人権デューディリジェンス(人権DD)でも、市民社会をはじめとするステークホルダーとのエンゲージメントが重要であり、その取り組みの強化とともに、もう一つの重要な柱である救済への取り組みが遅れている。
    • 救済機能を果たせるのが国内人権機関(NHRI)であり、日本政府はおよそ20年にわたって国連から設置の勧告を受けているが、未だに設置されていない。
  • EUを中心にビジネスと人権に関する人権・環境デューディリジェンスの法制化が進んでいるが、日本では未だに議論すらされていません。UNGPsでも、その原則に含まれているように、スマートミックス(義務的な取り組みと、自主的な取り組みのミックス)のバランスが重要であり、法制化への議論を加速化すべきです。

 

*1:目標16に含まれるターゲットの進捗を図るグローバル指標(全26)について、日本政府によるデータの公表状況は以下の通り。

 

  • 政府データあり:13
  • 政府データなし:12
  • その他:1
グローバル指標番号 内容 政府データの有無
16.1.1 10万人当たりの意図的な殺人行為による犠牲者の数(性別、年齢別) あり
16.1.2 10万人当たりの紛争関連の死者の数(性別、年齢、原因別) なし
16.1.3 過去12か月において (a)身体的暴力、(b)精神的暴力及び / 又は (c)性的暴力を受けた人口の割合 あり
16.1.4 夜間に自身の居住区地域を一人で歩いても安全と感じる人口の割合 あり
16.2.1 過去1か月における保護者等からの身体的な暴力及び/又は心理的な攻撃を受けた1歳~17歳の子供の割合 あり
16.2.2 10万人当たりの人身取引の犠牲者の数(性別、年齢、搾取形態別)  あり
16.2.3 18歳までに性的暴力を受けた18歳~29歳の若年女性及び男性の割合 なし
16.3.1 過去12か月間に、(a)身体的暴力、(b)心理的暴力及び/又は(c)性的暴力を受け、所管官庁又はその他の公的に承認された紛争解決機構に対して、被害を届け出た者の割合 あり
16.3.2 刑務所の総収容者数に占める判決を受けていない勾留者の割合 あり
16.3.3 過去2年間に紛争を経験し、公式又は非公式の紛争解決メカニズムにアクセスした人口の割合 (メカニズムの種類別) なし
16.4.1 内外の違法な資金フローの合計額(USドル) なし
16.4.2 国際的な要件に従い、所管当局によって、発見/押収された武器で、その違法な起源又は流れが追跡/立証されているものの割合 なし
16.5.1 過去12か月間に公務員に賄賂を支払った又は公務員より賄賂を要求されたことが少なくとも1回はあった人の割合 なし
16.5.2 過去12か月間に公務員に賄賂を支払った又は公務員より賄賂を要求されたことが少なくとも1回はあった企業の割合 なし
16.6.1 当初承認された予算に占める第一次政府支出(部門別、(予算別又は類似の分類別)) あり
16.6.2 最後に利用した公共サービスに満足した人の割合 あり あり
同 教育サービス なし
同 政府サービス なし
16.7.1  国全体における分布と比較した、国・地方の公的機関((a) 議会、(b) 公共サービス及び(c)司法を含む。)における性別、年齢別、障害者別、人口グループ別の役職の割合 あり
16.7.2 国の政策決定過程が包摂的であり、かつ応答性を持つと考える人の割合(性別、年齢別、障害者及び人口グループ別) なし
16.8.1 国際機関における開発途上国のメンバー数及び投票権の割合 (指標10.6.1と同一指標)  *世界全体において算出する指標であり、各国によるモニタリングが求められているものではない。
16.9.1 5歳以下の子供で、行政機関に出生登録されたものの割合(年齢別) あり
16.10.1 過去12か月間にジャーナリスト、メディア関係者、労働組合員及び人権活動家の殺害、誘拐、強制失踪、恣意的拘留及び拷問について立証された事例の数 なし
16.10.2 情報へのパブリックアクセスを保障した憲法、法令、政策の実施を採択している国の数 あり
16.a.1 パリ原則に準拠した独立した国内人権機関の存在の有無 あり
16.b.1 国際人権法の下で禁止されている差別の理由において、過去12か月の間に差別又は嫌がらせを個人的に感じたと報告した人口の割合 (指標10.3.1と同一指標) なし

 

執筆者プロフィール

堀内葵