2025年04月21日(月)
2024年のDAC諸国によるODA動向
おすすめ記事
お知らせ
研究

2024年のDAC諸国によるODA動向
高柳彰夫(JANIC政策アドバイザー)
OECD(経済協力開発機構)は4月16日に、開発援助委員会(DAC)メンバーの2024年(1月1日~12月31日)のODA(政府開発援助)の暫定値を発表した(外務省発表は以下ウェブサイトを参照)。ここ数年、COVID-19対応やウクライナ支援のために増えてきたODAであったが、2024年はいくつかのヨーロッパ諸国がODA予算削減の方向を打ち出していたこともあり、減額になることが予想されていた。本稿ではOECDの発表にもとづいて2024年のDACメンバーのODAの傾向をまとめたい。図表はこの発表を出典とするか、発表にもとづいて筆者が作成したものである。またあらかじめ以下の点をお断りしておきたい。
第一に、DACのメンバーであるが、2025年3月にラトヴィアが加盟し、32か国とEUの33メンバーとなった。ラトヴィアはOECDには加盟ずみでODA実績を報告してきたしことから、今回の発表にラトヴィアのODA実績も含まれている。
第二に、今回の発表は暫定値であり、確定値や配分の詳細については12月ごろまとまる。
第三に、最大のODA供与国であるアメリカは、2025年1月20日に2回目のトランプ政権発足直後にODA実施機関のUSAIDの活動停止を命じ、解体を行った。USAIDが行ってきたプログラムの83%中止が発表されている。OECDの発表は2024年12月31日までのODAに関するものであるから、トランプ政権によるUSAID解体の影響は含んでいない。
ODA総額と対GNI比の減少
2024年のDAC加盟国(EUは含まず)のODAの総額は2121億ドルで、前(2023)年に比べて7.1%の減少であった。対GNI比も2023年の0.37%から0.33%に下がった。
各国の2024年のODA額を図1(参考までにEUも載せている)に、対GNI比を図2にまとめた。
最大のドナーはアメリカで、DAC諸国のODA全体の30%を供与した。日本のODAは10.7%の減額となり、DAC諸国内の供与額の順位は前年の3位から4位に下がった。フランスまでの5大ドナーでDAC諸国のODA全体の70%を供与した。
対GNI比については、0.7%の国際目標が1970年以来あり、SDGsのターゲットにも含まれている。しかし0.7%を超えた諸国はノルウェー、ルクセンブルグ、スウェーデン、デンマークの4か国に限られ昨年よりも1か国減った。減った1か国はドイツで、ODAの対GNI比は0.79%から0.67%に大幅に下落した。日本のODAの対GNI比も前年の0.44%から0.39%に下落した。
(図1:2024年のDACメンバーのODA(100万米ドル)
(図2:2024年のDAC諸国のODAの対GNI比(%))
DAC加盟国の中で2024年のODA額が増えた国は10か国にとどまり、22か国が減額となった(表1)。特に5大ドナーがすべて減額となっている。
韓国 24.8
ポルトガル 21.3
ベルギー 12.2
スペイン 9.0
イタリア 6.7
スロヴァキア 3.9
ギリシャ 3.3
デンマーク 2.2
ニュージーランド 0.5
オーストラリア 0.3
フランス -0.02
ルクセンブルグ -0.3
スロヴェニア -1.8
オランダ -2.8
アイスランド -3.6
ノルウェー -3.8
アメリカ -4.4
カナダ -8.4
オーストリア -9.5
日本 -10.3
イギリス -10.8
フィンランド -12.9
リトアニア -12.9
スウェーデン -13.4
アイルランド -14.0
スイス -14.9
ドイツ -17.2
ラトヴィア -22.1
エストニア -26.3
ポーランド -26.8
チェコ -29.1
ハンガリー -31.5
(表1 2024年のDAC加盟国のODA額の対前年比)
対ウクライナ、LDCs、サハラ以南アフリカ支援の減額
2023年には単一の国に対する年間ODA供与額でDAC史上最大となったウクライナに対する支援は、2024年には16.7%減り、155億ドル(DAC加盟国のODA全体の7.4%)となった。ウクライナに対する5大支援国は、アメリカ・カナダ・ノルウェー・日本・スウェーデンであった。また二国間ODAに占める対ウクライナ支援の割合が高い国としては、リトアニア(29%)、カナダ(21%)、エストニア(19%)、ノルウェー(17%)、ラトヴィア(16%)、アメリカ(15%)があげられる。日本は3%である。
サハラ以南のアフリカに対する支援は360億ドルで前年に比べて2%減った。また後発開発途上国(LDCs)は350億ドルで3%の減少となった。サハラ以南アフリカやLDCs向けのODAの詳細は今回の発表では明らかにされておらず、確定値の発表まで待つことになる。
自国内難民支援も減少
DACで合意されたルールによると、DAC諸国は自国で受け入れた難民の支援について、到着後1年間に限りODAとしてOECDに報告でき、これを自国内難民支援(in-donor refugee costs: IDRC)という。2022年のDAC諸国ODAの急増をもたらした要因の一つは、ロシアのウクライナ侵略に始まるウクライナ危機にともなうIDRCの急増であった。2024年にはIDRCは前年に比べて17.3%減り、278億ドルとなった。ODA全体に占める割合も14.6%から13・1%に下がった。IDRCが15億ドルを超える諸国は、アメリカ・ドイツ・イギリス・カナダ・イタリアであった。IDRCのODAに占める割合が25%を超える諸国は、アイルランド・ラトヴィア・チェコ・イタリア・スイスであった。
借款
DAC諸国から2024年には贈与相当額で134億ドル(供与額Xグラント・エレメントで実額ではない)の借款が供与された。このうち60%に当たる800億ドルが日本からのものである。ODAに占める借款が高い国として、日本(56%)、韓国(30%)、ポルトガル(23%)、フランス(21%)、ハンガリー(17%)、カナダ(15%)がある。
2025年のODAはどうなるか
以上、OECDの発表にもとづいて2024年のDAC加盟国のODAの動向をまとめた。2019年から2023年までの間に33%の増額となったODAは、一転して減額となり、対GNI比も下落した。またウクライナ・サハラ以南のアフリカ・LDCsに対するODA、IDRCのいずれもが減った。
では2025年のODAはどうなるのであろうか。最初に書いたように、アメリカではトランプ政権の発足直後にUSAIDの活動停止と解体が行われていて、議会や司法の今後の動きを見る必要があるが、アメリカのODAがお幅に減少することが見込まれる。また、第2期トランプ政権発足以前からの動きとして、ヨーロッパ諸国のうち、ベルギー・フィンランド・フランス・ドイツ・オランダ・スイス・スウェーデン・イギリスもODA予算の減額を発表している。こうしたヨーロッパ諸国のODA予算削減の背景としては、まず各国で極右政党が台頭し、いくつかの国では政権に参加するか閣外協力などの形で関与していること、政権に参加しない場合でも極右政党の台頭の背景にある世論の内向き化に対応しなければならないことがある。またロシアのウクライナ侵略以降、各国で国防費を増額し、その財源確保のためODAを減額する傾向がある。たとえばイギリスはNATO関与があいまいなこともあり、国防費の大幅増額のためにODAの対GNI比の目標を0.5%から0.3%に下げること(大雑把にいえばODAを40%削減すること)を発表している。最後に、ヨーロッパ諸国は財政規律に関する各国およびEUの考え方も厳しい。5大ドナーのうち日本を除く4か国がODAの大幅な減額が予想または決定しているのである。
OECDはDACメンバーに対するアンケート調査を実施し、未回答の国が約3分の1あるが、それにもとづき2025年のODAは2024年に比べて9-17%の減額を予想している。

高柳彰夫(JANIC政策アドバイザー、フェリス女学院大学国際交流学部教授)
高柳彰夫(JANIC政策アドバイザー、フェリス女学院大学国際交流学部教授)
JANIC政策アドバイザー