2023年05月16日(火)
タイ総選挙、親軍勢力が大敗 国民が求めた真の民政
普及
タイ下院(定数500)の総選挙が5月14日に投開票され、現地からの報道によると、革新系の野党「前進党」が非公式集計で151議席を獲得し、第1党となった。現政権のプラユット首相の「タイ団結国家建設党」など親軍勢力は76議席と大敗した。
前進党とともに、タクシン元首相派の最大野党「タイ貢献党」も141議席を獲得。野党勢力とされる2党が連立を組む可能性が指摘されている。実現すれば、軍と距離を置く政権が、2014年5月の国軍によるクーデター以来、約10年ぶりに誕生することになる。2019年には選挙を経て民政に戻ったものの、軍の影響力は残ったままだった。
ただ、前進党が掲げる不敬罪の改正を含む王室改革について、貢献党が合意できるかどうか、など、連立に向けた課題は残っており、「親軍派大敗」という国民の民意をどのように反映するか野党側の調整が注目されている。
タイが2019年まで軍事政権だった、と言っても、あまりピンとこない方も多いのではないだろうか。タイには多くの日系企業が進出し、世界最大規模の「日本人コミュニティ」が形成されているにもかかわらず、タイ国内の政治については、ほとんど報道されることがなかった。
2019年には総選挙が実施され、2014年のクーデターを指揮した現首相のプラユット氏の「国民国家の力党」が連立政権で過半数を確保し、政権を握った。形としては民政移管だったが、プラユット首相を含む政権の主要ポストを軍出身者が担うなど、完全な民政とはいいがたい状態だった。
また、2020年ごろからは、政権に不満を持つ人々、特に若者たちの抗議デモが相次いだ。中学生や高校生もデモに参加した。アムネスティインターナショナルによると、「デモの中心的役割を担うのがLGBTIや先住民族、少数民族の子どもたち」であり、彼らは「政治体制が家父長的で保守的だ、として政治や社会、教育面での改革を訴えている」と、している。また、アムネスティインターナショナルは、デモに参加した子どもたちへの「常軌を逸した弾圧」があった、とプラユット政権を非難している。
プラユット政権への批判の声は、抗議デモへの不当な弾圧だけではない。新型コロナ対策や経済回復策への不満なども募っていた。隣国ミャンマーで2021年に起きた国軍クーデターによる国民の弾圧や社会混乱も、タイ国民に「政治と軍が近いこと」の危険性を見せつけた可能性もあるだろう。いずれにしてもメディアや専門家は、今回の投票結果が、「軍の政治への関与にノーを突き付けた」と読みとっている。
タイの人々は投票という手段で、「真の民政を求める」という民意を明確に示した。タイの政治家たちが民意にどう応えていくかを見守りたい。
(ウィークリーコラムは個人の見解に基づく記事であり、THINK Lobbyの見解を示すものではありません)