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2023年06月19日(月)

【コラム】何のための開発協力大綱改定だったのか?

若林 秀樹

「開発協力大綱」改定が2022年9月に発表されて約9カ月が経過した6月9日、新しい「開発協力大綱」が閣議決定された。日本の開発協力は、今後、この基本方針に則って行われることになる。今回は、「2015年の策定時からの大きな環境変化」が改定の理由だったが、最終的な大綱の内容に大きな変更はなく、「何のための大綱だったのか」という疑問が残る。しかしその一方で、市民社会として様々な指摘をした結果、このように表面的には大きな変更がない内容に落ち着いた、ともいえる。

今回、改定のために有識者懇談会が計4回開かれたが、有識者懇談会の報告書は、わずか数時間の議論で出され、それを基に大綱案の改定案が作成された。最初から「大綱の改定ありき」、「改定のための改定」になっているとの印象が強く残った。時代に即した形で開発協力のあり方をアップデートするのは当然である。ただ、この間の環境変化を踏まえ、現行の大綱では、開発協力を実施する上で、何が問題なのか、援助される側の国や人々からどのような問題が指摘されていたのか、現行の大綱と、現状の開発協力における実態とのギャップ分析がなかったのは残念である。

改定発表時の文書である「改定の方向性」や、その後の有識者懇談会の「報告書」には、環境の変化や取り組みの方向性として、勇ましい言葉が並んだ。例えば、「グローバル化に逆行する動き」、「極めて複雑な国家間競争の時代に」、「普遍的価値に基づく国際秩序は厳しい挑戦を受けている」、「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を構築が必要」、「自由で開かれたインド太平洋の理念(FOIP)の具現化がますます肝要」、「外交の最も重要なツールの一つであるODAの更なる戦略的活用」、「日本の経済安全保障に資する開発協力を推進」、「同志国を始めとする各国との連携」等々。まさにロシアのウクライナ侵攻、中国の台頭等の国際情勢を反映し、日本の国益確保、安全保障の観点からの大綱改定の色彩が強かった。

これに対し、市民社会は繰り返し問題点を指摘してきた。また、パブリックコメントの内容も踏まえ、最終的な大綱での文章表現は、大綱改定発表時のこれらの勇ましい言葉は少なくなり、極めてマイルドになったと言える。批判を受けた「経済安全保障」という言葉は消え、「同志国」は「他ドナー」に置き換えられた。「非軍事原則」については、「実質的に軍・警察への能力強化につながった懸念は払拭できていない」と指摘したが、以前の大綱からは後退せず、表現はほぼ維持された。

しかし、その代わりなのか、外務省は「同志国の安全保障上の能力・抑止力の向上」を目的とした新たな支援のスキーム、「政府安全保障能力強化支援(OSA:Official Security Assistance)」を作った。「開発協力大綱」とは別のものではあるが、これにより、直接的な軍事支援の道を開くことになった。これまでの政府開発援助(ODA)と一体化することが懸念され、平和主義理念に基づき築き上げてきた日本のODAの財産を破壊し、日本の中立性や国際協調主義が後退しかねない。

このように懸念するのは、2022年12月に閣議決定した「国家安全保障戦略」には、やはり上記の勇ましい言葉が並んでいるからだ。例えば「FOIPというビジョンの下、自由で開かれた国際秩序を維持・発展させ、国際社会の共存共栄を実現するためにODAを戦略的に活用していく。具体的には、質の高いインフラ、人材育成等による連結性、海洋安全保障、法の支配、経済安全保障等の強化のための支援を行う」と、している。当初発表された「改定の方向性」と、この「国家安全保障戦略」の「開発協力」部分は、本質的な内容やトーンは全く同じで、「経済安全保障等の強化」、「同志国」といった言葉が使われていたのだ。

改めて、「何のための改定プロセスだったのか」と思う。市民社会との意見交換会では、外務省から発表された有識者懇談会報告書等の内容について賛成する発言はほとんどなく、同様にパブリックコメントでも、多くの問題点が指摘されたと思われる。

市民社会からの様々な意見は、開発教育などで部分的に採用された。しかし、開発協力における国益重視、ODA戦略的活用などについては、表現は変わったものの、本質までは変わったとは思えない。「開発協力」の本来のあり方、「国際目標であるODAのGNI比0.7%達成」、「人権デューディリジェンス」の実施等は、市民社会の再三の指摘にも関わらず、無視された結果となった。国の政策は、市民や様々なステークホルダーの声を聞いて、反映されるべきものであるのは当然だ。しかし今回、そうはならなかった。この現実に直面し、我々も反省すべき点は真摯に反省し、今後のアドボカシー活動を改善、向上させていく必要があろう。

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開発協力大綱案へのパブリックコメント

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(ウィークリーコラムは個人の見解に基づく記事であり、THINK Lobbyの見解を示すものではありません)

 

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