SHARE

2024年09月19日(木)

【開催報告】持続可能な開発・気候資金枠組みにむけた日本の役割~市民社会ネットワークづくりのためのキックオフ会合~

おすすめ記事

お知らせ

普及

堀内葵

2024年7月31日(水)、東京都内の会議室にて、持続可能な開発・気候資金枠組みにむけた日本の役割を考え、情報交換を行うための市民社会ネットワークづくりを目的としたキックオフ会合を開催しました。

本会合は、アフリカ日本協議会、グリーンピース・ジャパンおよびJANICを共同実施団体とする「開発・気候資金アドボカシープロジェクト」の一環として実施され、各分野で活動する日本の市民社会組織約20団体、30名ほどが参加しました。

本レポートの最後に、「持続可能な開発資金枠組み達成に向けた市民社会ネットワーク(略称:JFFネットワーク)」への参加申し込みフォームも紹介していますので、ぜひご覧ください。

背景

コロナ・パンデミック以降、多くの国々が債務危機に苦しんでいます。2030年までのSDGs達成や、気候変動の緩和策・適応策を世界全体で実施するには膨大な資金がかかりますが、現状の政府開発援助(ODA)では到底足りません。

現在の国際金融・財務枠組みは先進国に有利な形で形成され、税や負債などを通じ、資金・富はグローバルサウスからグローバルノースに流れています。これらを克服するため、新たな地球規模の資金枠組みや大胆な取り組みが必要とされており、世界の市民社会からは、世銀グループやIMF、国際開発銀行(MDBs)の大規模な改革と、国際連帯税をはじめ、新しいアイデアに基づく資金メカニズムの構築を提案する動きが出てきています。

日本からも、こうした動きに追いつき、世界の市民社会とともに取り組んでいくため、開発や貿易、債務、気候、環境等に取り組む市民社会が一堂に会し、政策提言やキャンペーンなどの運動を創る必要があります。

今年(2024年)は、環境政策の大きな指針である第6次環境基本計画が閣議決定されたり、外務省が「開発のための新しい資金動員に関する有識者会議」を開催したりするなど、国内で新しい動きがあります。また、国際租税協力枠組条約の起草準備が始まり、長年、OECD主導であった租税の課題が、国連を中心とした枠組みに再編されようとしています。アゼルバイジャンで開催される国連気候変動枠組締約国会議(COP29)においては開発途上国向けの資金動員が焦点の一つとなります。

来年(2025年)には、アディスアベバ行動計画を採択した第3回開発資金会合(FFD3)から10年目となり、FFD4が開催されます。日本政府は資金や国際財政構造(IFA)においては大きな発言権をもっており、こうした動きと協調しながら、日本のNGOからの提言を伝え、多くの人々とともに声を上げていく役割はますます重要となっています。

これらを受け、有志団体で「市民社会ネットワーク」を立ち上げ、このネットワークを通じて、資金に関する最新動向を共有し、これまで分断していたアドボカシー機会に共同で取り組む場を提供し、必要な機会に政策提言を実施することを目指します。

導入

キックオフ会合では、共同実施団体の一つであるグリーンピース・ジャパンの小池宏隆による司会で進行し、冒頭、JANICの堀内葵よりプロジェクトの趣旨説明を行いました。

近年の気候危機の甚大化により、先進国を中心とする温室効果ガスを大量に排出してきた「汚染者責任」を求める声がグローバルに高まっていること、COVID-19パンデミックや度重なる紛争に伴う物価高・資源高と債務拡大により、開発途上国での気候変動対策や国内開発への資金動員を妨げていること、資金を供給すべき国際開発金融機関(MDBs)における意思決定の偏りから公平な課税制度の導入を求める動きが高まっていることなどを説明し、資金の流れを変え、より公正な社会、すなわち、「SDGsの達成」を目指す市民社会の動きを紹介しました。

G7/G20の一員として日本政府の取り組みに期待する声が高まっており、日本の市民社会にもこうした世界的な市民社会の動きに呼応して行動すべき、と呼びかけました。

さらに、本プロジェクトとして実する4つの活動(情報交換の場の設置、政策提言、若者組織との連携、映像資料作成による普及)を説明し、アジアやグローバル市民社会による国際財政構造改革に向けた戦略会議への参加報告も行いました。

基調講演

その後、基調講演として、ドイツの開発・環境・人権分野で活動するNGO「ジャーマンウォッチ(GermanWatch)」のデヴィッド・ライフィッシュ氏より、「国際財政構造と日本」と題してお話しいただきました。開発資金、気候変動対策、生態系保全のための資金ギャップを埋めるために、ドイツをはじめ、グローバルな市民社会による国際財政構造改革に向けた取り組みについて紹介がありました。

日本の市民社会からの発題

続いて、開発、貿易・債務、気候分野に主に取り組む日本の市民社会3団体から、なぜこれらの課題に取り組む必要があるのか、また、どのような提言機会があるのかを共有しました。セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの堀江由美子さんからは「途上国が社会課題の解決や気候変動への適応に投資できるよう、国際財政構造の改革に向けて、日本の市民社会による働きかけの戦略化が必要」、アジア太平洋資料センターの内田聖子さんからは「債務も含む経済課題は多岐にわたるため、それぞれの課題に取り組む団体同士が連携し、情報共有を進め、G7/G220/IMFなどに対して根源的な改革を行う『パワーシフト』を少しずつでも取り組みたい」、グリーンピース・ジャパンの小池宏隆からは「今年のCOP29は、気候資金に関する新しい目標(NCQG)が締結されるため重要、一方で気候資金不足は構造上の問題なので単に資金を増やすだけではなく、構造を変革する必要がある」という発表がありました。

ワークショップ

その後、基調講演や発題を踏まえ、参加者が小グループに分かれて、国際財政課題が及ぼす各団体への影響や今後の動きについて共有しました。(1)各団体による資金課題への取り組みの共有、(2)市民社会ネットワークへの期待、(3)連携に向けて各団体が提供できること、について意見交換を行いました。ワークショップで出された意見を抜粋してご紹介します。

 

団体の活動紹介:

  • 援助資金の枠組みを変えるためのアドボカシーを行なっている。
  • 開発援助に関して若い人たちへのキャンペーンや働きかけを行なっている。
  • エクスポート・クレジットの化石燃料を止めさせるための活動を行なっている。COPなどで毎年市民社会として提起を行なっている。
  • 子どもの権利を中心に据えた政策提言活動を行なっている。
  • NCGQ(New Collective Quantified Goal / 新規合同数値目標)の議論を追っている。
  • SDGs達成に向けた日本の若者の声を集約し、政策として日本政府や国連、市民社会に届ける活動をしている。
  • 気候危機を悪化させる化石燃料や、高コストで問題の多いアンモニア混焼や原子力などのグリーンウォッシュ技術への資金支援をやめ、公平で、安全で、安価な再生可能エネルギーや省エネルギーの普及のために使うよう求めるオンライン署名を実施している。

 

ネットワークで得たいこと:

  • 異なる分野に関わる団体や個人が協力することが、より大きな力になり得る。
  • ネットワークを形成することで関わり方が多様になり、個別の団体にとっても政府や議員に対しての影響力が増加する。
  • アクションにつながるきっかけが増えることを期待する。
  • 世界銀行へのアドボカシーを共同でできるとよい。
  • グローバルノースからグローバルサウスへの気候資金の流れのトラッキングができるとよい。
  • グローバルサウスにおける気候資金プロジェクトの現場の確認ができるとよい。
  • ボランティアのトレーニングや資料提供を一緒にできるとよい。
  • 若者の声を集約し、日本政府に政策提言できるとよい。
  • 日頃の情報交換からお互いの活動を知っておくこと。
  • 互いの活動から相乗効果が得られると良い。
  • 政策決定者に対する影響力の向上、その方法について学びたい。
  • これまで開発NGOとの接点があまりなかったが、情報を得ることで学びがある。

 

どのような連携ができるか:

  • SDGsのローカライゼーションと開発資金等の課題とを結び付ける。
  • SDGsの2030年までの達成に向けたアドボカシーをともに行う。
  • 国際課税問題についての理解の促進と、それに基づいた市民社会としての協力を促進する。
  • グローバルサウスにおける気候資金のあり方について調査・提言する。
  • 日本政府(財務省・外務省)との対話の場を設ける。
  • 少数派の意見を切り捨てず、互いに尊重・認め合うこと。
  • 一般市民に対して日本の資金拠出を支援するようなナラティブを主流化させたい。
  • 環境NGOはポジションの違いから協働が難しい場合もあるが、ゆるやかにつながることで声の層を厚くし、セクターとして政府に対する影響力を向上すること。
  • 「新自由主義」や「経済課題」という括りは非常に大きく、とっつきにくい。例えば気候危機の課題を入り口にして、市民(特に若い人たち)をまきこんでいくようなアプローチが可能なのではないか。

 

最後に、2025年までに開催される開発資金や気候資金に関する重要な国際会議をリストアップし、各団体がどの会議にどのように関わる予定なのかを確認しました。

閉会挨拶

閉会挨拶として、共同実施団体であるアフリカ日本協議会の稲場雅紀より、「ポストSDGsを睨んだ議論もまもなく始まり、COP29やG20サミット、開発資金会合など、重要な国際会議が続く。これまで開発、気候、資金それぞれの分野でいろいろな団体が関わってきたが、それらの取り組みについて横の情報交換を行うネットワークとして、ぜひこの枠組みを活用してほしい」と締めくくりました。

終了後、参加者が互いをよく知り、ネットワーキングをすることを目的として交流会を開催しました。

 


市民社会ネットワーク参加者募集!

「開発・気候資金アドボカシープロジェクト」の一環として、開発・気候資金に関して、日本政府も重要な位置を占める国際財務構造の改革を目指して、多様な分野で活動するNGOから構成されるアドボカシー・プラットフォーム(名称:持続可能な開発資金枠組み達成に向けた市民社会ネットワーク、略称:JFFネットワーク)への参加者を募集します。参加を希望される方は下記フォームからお申し込みください。

https://forms.gle/KhRM3pGBno9a1Uaz6

執筆者プロフィール

堀内葵