SHARE

2023年05月23日(火)

G7広島サミット「核廃絶」からみた市民社会C7の役割

若林 秀樹

広島G7サミット(5月19日〜21日)開催時に、国際メディアセンター(IMC)と連動した、C7、市民社会としての一連の記者会見等の活動が終わりました。数にして50を超える記者会見、イベント、映画上映、パフォーマンスがあり、様々な展示も行われました。テーマとしては、核廃絶、気候変動・エネルギー、国際保健、人道支援、LGBTQ+、教育、ウィグル、チベット、西サハラ等の地域問題等があり、発表内容も充実し、市民社会としての有効なメッセージを発信することができました。

最終日の5月21日には、G7市民社会コアリション2023共同代表、C7のワーキンググループのコーディネーターによる、今回のG7サミットの評価に関する記者会見を行いました。評価のスケールは、「晴れ」「曇り時々晴れ」「曇り」「雨」「土砂降り」の5段階で、特に「核廃絶」については、期待も大きかっただけに厳しく、全体としても「雨」との厳しい評価になりました。評価の詳細については、文末のURLのプレスリリースをご参照ください。

首脳宣言に対するC7(Civil7)記者会見での評価の様子(2023.5.21@広島市青少年センター)=G7市民社会コアリション2023提供

「C7」とは、オフィシャルエンゲージメントグループの一つです。エンゲージメントグループは、政府とは独立したステークホルダーにより形成される各グループとして、G7で議論される関心分野について、G7の成果文書に影響を与えるべく政策対話や提言を行います。C7以外には、ビジネス(B7)、労働(L7)、女性(W7)、若者(Y7)、科学(S7)、サイエンス(T7)、大学(U7)等があり、今回、初めてLGBTQ+の人権保護・政策提言をするプライド(P7)が設立されました。

C7は、G7の国のみならず、世界の市民社会の参加によって政策提言活動を行っています。今回は、世界から72カ国、700人以上の方が参加してC7コミュニケ(提言書)を作成しました。むしろG7以外の国からの市民社会の参加が多く、ある意味、世界の実態を表していると言えます。C7の提言は、国境を越え、国際的な規範に則り、世界の市民の声が反映されたものになっています。従って、政府の立場とは違うのは当然であり、だからこそ意味があると思っています。

今回のG7は、被爆地である広島開催ということもあり、平和や核廃絶が主要テーマの一つになると予想されました。C7としては、核廃絶以外にも、誰一人取り残さない持続可能な社会を目指し、幅広いテーマで提言を行いました。ただ、ウクライナのゼレンスキー大統領の来日が急遽決まり、ウクライナ支援や核兵器問題がG7の最大関心事項になり、他のテーマの存在感が薄れてしまった感は否めません。

21日の記者会見には、「核兵器廃絶」ワーキンググループの代表としてICAN核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の国際運営委員でもある川崎哲氏(ピースボート代表)が出席しました。川崎氏は、G7サミットでの成果文書について、「核兵器の廃絶を求めるものになっていない」、「自分たちの核兵器については、防衛目的、抑止目的として正当化している」として、G7リーダーの原爆資料館訪問以外は、極めて厳しい評価をしました。

また被爆者であるサーロー節子さん(カナダ在住)は、C7が設定した緊急記者会見で、「広島まで来て、これだけしか書けないと思うと、胸がつぶれそうな思い。死者に対して侮辱。死者に対して大きな罪だった」と厳しい意見を述べ、メディアでも大きく取り上げられました。市民社会としては、この成果文書について核廃絶に向かう具体的な計画など、一歩踏み出された表現はなく、広島で開催した意味がない、というメッセージになりました。

一方で岸田首相は、「リーダーが被爆の実相に触れることができたことは大きな成果」、「歴史上初めて、単独の文書として、核軍縮に関する『広島ビジョン』を発表できた」と、核廃絶に関する成果を強調しました。

このように、核廃絶の問題をめぐっては、お互いに核廃絶を究極の目標としつつも、政府と市民社会の大きな隔たりが浮き彫りになりました。G7各国は、現下の国際情勢をみれば、核の抑止力に頼らざるを得ない現状であり、「広島ビジョン」は、ロシア等の批判に終始し、G7が「核兵器のない世界」実現への決意や道筋を示したとは言い難い成果文書になりました。ただ、岸田首相が、核廃絶の思いを伝え、リーダーに原爆資料館を見学してもらい、核兵器使用の悲惨な状況を知ってもらったことは、リーダー一人ひとりの記憶に刻まれるものとして、意味があったと思います。

G7は、世界200前後の国と地域がある中で、わずか7カ国の集まりです。経済的な影響力も4割強と年々下がっており、「G7」という枠組みそのものの存在を疑問視する意見もあります。
我々は、G7サミットを政策実現のための一つの機会として捉えています。このほかに、G20関連会議や、国連など国際会議を含むあらゆる機会を利用し、持続可能で「誰一人取り残さない」社会に向け、国境を越えて連帯し、取り組みをさらに強化しなくてはなりません。

【プレスリリース】G7広島サミットは「雨」市民社会が総括
https://g7-cso-coalition-japan-2023.mystrikingly.com/blog/230522-ngospace-c7-pressconference

 

折り鶴プロジェクト展示

 

P7&W7アクション

 

国際メディアセンター(IMC)での広報活動

 

執筆者プロフィール