SHARE

2023年03月14日(火)

国際協力と安全保障の新たな関係に向けて

若林 秀樹

2022年9月、「開発協力大綱の改定」が外務省から発表され、12月に、有識者懇談会の報告書が提出された。そしてまもなく、「新大綱案」が示されて、パブリックコメントが開始されるものと思われる。

市民社会としては、有識者懇談会等の中で、1)日本の国益や安全保障を全面に押し出した外交のツールとしてのODAではなく、真に途上国の貧困削減や人間の安全保障等に資する支援で行うべきである、2)非軍事原則については、「軍や法執行機関への支援を排除すべきではないとする」という政府のあいまいな姿勢ではなくし、その原則を徹底すべきである、3)ODAの実施規模については、国際約束であるGNI比0.7%目標を達成すべきである等、様々な点を指摘した。この中で1)、2)については依然として市民社会と政府との間に大きな隔たりがある。3)については、「今後 10 年で GNI 比 0.7%を達成する」など達成年限を明確に設定することが報告書に記載されたが、「新大綱」でそれが反映されるかどうかは定かではない。

また有識者懇談会が開催されていたのと同じ時期に、日本政府は、防衛予算の倍増、安保関連3文書の閣議決定、新たに外務省のODA枠外での軍事支援20億円の計上等、日本の安保政策の大転換を相次いで発表した。JANICは、「防衛政策の大転換について、政府の丁寧な説明を求めます」という声明を出して政府に説明責任を求めたが、それが果たされたとは思えない。

一方で世界の国際情勢を見渡すと、グローバル経済が進展し相互依存が深まっても、国際社会の平和と発展が必ずしも保証されない現実を私たちは目の当たりにしている。ロシアのウクライナ侵攻等、自衛のためではない、力による現状変更や侵略、権威主義的国家の増加、市民への弾圧、民主主義の否定が横行している。

このような状況下において、真の国際協力を展開し、民主主義や人権等の普遍的な価値を守るため、日本政府は外交分野においてどのような役割を果たすべきだろうか。意味のある防衛力の整備は必要だが、むやみな防衛予算増や敵基地攻撃の能力の確保等の防衛政策の大転換は、アジア・太平洋地域に分断の危機を招きかねない。それより、日米同盟を基軸にした米国の軍事抑止力を使いながら、地域の脅威レベルを下げる外交を推進するためにも、人間の安全保障を軸にした「国際協力」と、民主主義や人間安全保障等の普遍的な価値をベースにした「外交」を一層推進することが日本の役割ではなかろうか。ODAにおいては、中立的な立場で、国内外のNGOをパートナーとした国際協力が一層必要である。

一方でNGOとしても、軍事力の役割を含む国際情勢の現実を直視することが必要だと考える。この現実を踏まえた上で、世界の平和と安定、持続可能な社会に向け、国内外の市民社会組織と協力すべきだ。また、立場は違っても各国政府と実質的な議論ができる環境を醸成し、多くの市民の声を背景にした新たなシビリアンコントロールを果たしてくことが求められるのではないだろうか。
(ウィークリーコラムは個人の見解に基づく記事であり、THINK Lobbyの見解を示すものではありません)

執筆者プロフィール

若林 秀樹