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2023年03月21日(火)

セブの眠らない街で考えたこと

木村 文

3月初め、フィリピンのセブ島に出かけた。セブ州にあるIT産業の経済特別区、「セブITパーク」での仕事だった。
ITパークには、ソフトウェア研究開発会社や、コールセンターなどのビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)の企業が入居する高層ビルが立ち並ぶ。フィリピン政府によると、もともと空港があった27ヘクタールの区域に建設され、2000年に政府が経済特区として認可した。

「24時間眠らない街」と聞いていたので、夜11時過ぎにITパークを歩いてみた。
確かに、高層ビルの灯りは消えず、スターバックスなどのカフェやレストランはどこも満席に近い状態だった。24時間営業の店も少なくない。コールセンターのあるビルの入り口では、仕事を終えた人たちが出てくるのと入れ替わりに、IDカードを持った人たちが列をなして入っていく。シフト交代の時間だったのだろうか。どこを見ても、若い人たちだらけだ。56歳の私は、おそらく今現在、ITパーク内で一番年上なのではないか、とふと思った。

フィリピンのコールセンタービジネスは、2000年ごろから急速に伸びてきた。コールセンターというビジネススタイルは、英語を公用語としていて、そもそも接客などホスピタリティ精神にあふれるフィリピンの人たちに合っていたのかもしれない。2010年には、コールセンター業務ではインドを抜いて世界トップになった。また、新型コロナの感染拡大により、コールセンターのようなBPOはさらにニーズが高まっているという。

あふれ出すような若いエネルギーを浴びながらITパークを歩き、これはフィリピンにとって良いことなのだろうな、と思った。フィリピンは、世界でも指折りの「海外就労者」大国である。国民の10人に1人は海外で働いているといわれ、彼らからの海外送金はフィリピンの国内総生産(GDP)の8%を占めるという。国の経済を支える彼らは「英雄」と呼ばれ、クリスマスの帰省シーズンには、国を挙げて彼らの労をねぎらう。

しかし、働き盛りの世代が海外に流出することで、フィリピン国内の人材は空洞化した。国内に産業が育たず、医療従事者や技術者など専門人材も不足した。一家の大黒柱がいない家庭では、子どもたちに対するしつけや教育の問題も指摘されてきた。BPOの拡大だけで産業構造が変わるということではないが、国内に若い働き手の受け皿があるということは、人の流れを変える可能性があるだろう。

さて、若さにあふれるフィリピンのような国々と、私たち日本人はどのように向き合っていけばいいのだろうか、と考える。日本はすでに、看護や介護などいくつかの分野をフィリピンの若い世代に支えられている。外国人労働力の受け入れは、「高度外国人材」として、経営や人文分野にも広がろうとしている。また、課題の多い技能実習生制度の見直しをはじめ、遅すぎるとはいえ、日本における外国人労働者の受け入れは変化し始めている。一方で外国人に対する日本人のマインドはどうだろう。対等なパートナーとして向き合う心構えはできているだろうか。「助けられている」という立場への認識の切り替えはできているだろうか。これが世界の現実なのだ。自問をしながら、真夜中のITパークを歩いた。

(ウィークリーコラムは個人の見解に基づく記事であり、THINK Lobbyの見解を示すものではありません)

執筆者プロフィール

木村 文

木村 文

コミュニケーション・コーディネーター