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2023年03月30日(木)

忘れられた人道危機・ロヒンギャ難民、帰還事業推進に懸念 

木村 文

ミャンマーでクーデターにより実権を握った国軍が、隣国バングラデシュに難民として逃れたミャンマー西部ラカイン州のイスラム少数民族ロヒンギャの人々の帰還を進めようとしている。しかしミャンマー国内では、国軍が民主化を求める市民の弾圧を続けており、ロヒンギャの人々の安全も保障されない、と懸念する声が上がっている。

各種報道によると、ミャンマー国軍は、「約1500人のロヒンギャの帰還を受け入れる」としている。また、その後もさらに5000人以上を帰還させるために、バングラデシュ政府と交渉をする方針だという。バングラデシュからの報道によれば、3月下旬には、17名の国軍関係者がバングラデシュを訪れ、ロヒンギャ難民から、名前や出身地などの聴き取り調査をした。「4月半ばまでには帰還事業に着手する」とも報道されている。

ロヒンギャ難民の支援に取り組む「難民を助ける会」によれば、特に難民の流入が多いバングラデシュ南東部コックスバザール県には、推計で100万人余りのロヒンギャの人々が暮らしている。近年で数十万人規模の流入があったのは2017年8月下旬以降だが、最初に彼らが難民としてバングラデシュに逃れたのは1978年。現在はコックスバザール県に10か所以上の難民キャンプがある。
長期に渡り、ミャンマー国内で弾圧を受けてきたロヒンギャの人々は、その過酷な経験と避難生活から、「世界で最も迫害された少数民族」とも呼ばれているという。

今回の国軍による帰還事業推進について、バングラデシュの新聞は「国際社会の圧力が一定程度の成果を上げた」との見方を示しながらも、「国軍が、安全な環境を確保し、ロヒンギャへの迫害を完全に終わらせる責任を果たすよう継続的な監視が必要だ」とも指摘している。

この新聞によると、国軍はASEAN諸国やバングラデシュ、インド、中国の関係者をミャンマーのラカイン州に招き、帰還の受け入れ態勢について説明をしたという。しかし、「2017年以降、ロヒンギャ難民の帰還の試みは2度にわたり失敗している」という事実もある。また、ミャンマーは、ロヒンギャに対する集団殺害があったとして国際司法裁判所(ICJ)に提訴されており、この審理が4月28日に控えていることを意識した動き、とも受け取れる。

ロヒンギャへの迫害は、現在の国軍支配下で急に始まったことではない。その歴史的な事実を踏まえつつも、2021年2月のクーデター以降、3,000人以上の市民を殺害し、2万人以上を拘束した国軍の支配下にあるミャンマーは、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が声明で指摘した通り、「持続可能な帰還に適していない」。国軍が、ロヒンギャの人々に帰還を強制することのないよう、注視しなくてはならない。

(ウィークリーコラムは個人の見解に基づく記事であり、THINK Lobbyの見解を示すものではありません)

執筆者プロフィール

木村 文

木村 文

コミュニケーション・コーディネーター